草地に対する適正な糞尿還元量の設定


[要約]
草地に対する適正な糞尿還元量は、施用した糞尿から牧草に供給される養分(N,P,K)のいずれかが施肥標準に達するまでの量であり、これにより牧草の生産性と品質を保持し、土壌中の硝酸態窒素残存量を最小限にとどめることができる。この場合、糞尿から供給される養分量と施肥標準量の差を化学肥料の施用量とする。
北海道立根釧農業試験場・研究部・土壌肥料科、酪農第二科北海道立天北農業試験場・研究部・泥炭草地科
[連絡先]01537-2-200401634-2-2111
[部会名]畜産・草地
[専門]肥料
[対象]牧草類
[分類]指導

[背景・ねらい]
酪農地帯の環境保全を前提に、家畜糞尿の有効利用と品質・収量を満足する適正な糞尿還元量を設定する。

[成果の内容・特徴]
  1. 12t/10aを超える堆肥の表面施用により、牧草茎数の減少および草種構成の悪化と牧草体カリウム含量の上昇を招き、吸収されなかった硝酸態窒素は収穫跡地土壌に残存する(表1図1)。
  2. スラリー施用量の増加に伴い、牧草収量の増加は頭打ちとなり、牧草体カリウム含量の上昇に伴いミネラル組成が悪化する。全窒素換算で40kg/10a相当量のスラリーを施用して栽培した牧草(N40)をサイレージ調製して乳牛に給与すると、N10に比べて乳量および血中マグネシウム濃度が低下する(表2)。
  3. 維持管理時のチモシー単播草地に表面施用した堆肥から供給される窒素の配分を堆肥無施用区との差し引きから推測すると、34%は牧草に利用され、32%は草地表面に蓄積し、残り34%の行先は不明である。
  4. 維持管理時の混播草地に堆肥を4〜6t/10a連用する場合、不足する養分の適正な補給により、マメ科牧草の維持および施肥標準区と同等の収量確保が可能である。粗飼料のミネラル組成悪化を防ぐには、肥効率を考慮したうえで堆肥から牧草に供給されるカリウム量を把握し、施肥標準量を超えるカリウムを供給しないことが重要である。
  5. 草地に対する適正な糞尿還元量を、1.牧草地としての生産性を維持し、2.牧草ミネラル組成が施肥標準に準じて栽培した場合より悪化せず、3.土壌中の硝酸態窒素残存量を最小限にとどめる範囲と位置づけ、施用した家畜糞尿から牧草に供給される養分量(N,P,K)のいずれかが施肥標準量に達する量とする。
  6. 適正な糞尿還元量は、1.施用する糞尿処理物から牧草に供給される養分量Y(kg/t,FM)を窒素、リン酸、カリウムの養分毎に把握する。2.「北海道施肥標準」に従い、対象草地の必要養分量F(kg/10a)を養分毎に設定する。3.糞尿処理物の施用量をA(t/10a,FM)とし、Y×A=Fとなる量を草地に対する適正な糞尿還元量の上限とする。4.糞尿から供給される養分量Y×Aと、施肥標準量Fとの差を化学肥料の施用量とする。道東の火山性土地域における試算例を表3に示す。

[成果の活用面・留意点]
  1. 維持管理時の採草地に適用し、植生診断や土壌診断などの基本技術との連携を図る。
  2. 糞尿処理物中の養分量には大きな変動があるため、供給される養分量の把握に努める。

[平成10年度北海道農業試験会議成績会議における課題名及び区分]
課題名:草地に対する適正な糞尿還元量の設定(指導参考)

[その他]
研究課題名:牧草地・畑作・野菜に対する糞尿還元量の設定
予算区分 :道単(家畜糞尿利用技術開発事業)
研究期間 :平成10年度(平成6〜10年)
発表論文等:松本武彦・寶示戸雅之,厩肥を連用したチモシー単播草地における窒素収支,日本土壌肥料科学会講演要旨集,43,309,1998

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