酪農経営における窒素フロー−根釧農試における事例−


[要約]
北海道立根釧農業試験場畜産圃場における環境負荷窒素量は、草地では25〜32kgN/ha/yrであるが、草地に牛舎等の施設を加えた畜産圃場全体では53kgN/ha/yrに達する。このことは、環境保全上、牛舎等施設の管理の重要性を示唆するものである。
北海道立根釧農業試験場・研究部・土壌肥料科
[連絡先]01537-2-2004
[部会名]畜産・草地
[専門]肥料
[対象]牧草類
[分類]指導

[背景・ねらい]
酪農経営における環境負荷の発生地点および量の解明は未だ不十分である。そこで、北海道立根釧農業試験場畜産圃場(以下、畜産圃場)を、適正な糞尿処理を実施している酪農経営の事例とみなし、環境負荷を中心に、草地および施設群(牛舎および堆肥盤等)を含めた全体の窒素フローを把握する。

[成果の内容・特徴]
  1. 畜産圃場における1年間の窒素の収支は、Input、OutputおよびPoolでそれぞれ22,000、9,900(Inputの45%)および6,600kgN(同30%)である。Outputの一部である環境負荷量の合計は、年間6,500kgN(同30%)であり、その中ではアンモニア揮散の寄与がもっとも大きく、地下浸透と表面流去がそれに次ぐ(図1)。
  2. 採草地では、放牧地に比べ、ガスとしての環境負荷が大きく、特に、スラリー散布に伴うアンモニア揮散の寄与が大きい。一方、放牧地では、水の流出に伴う負荷である表面流去および地下浸透が、採草地に比べ大きい。単位面積当たりの窒素量で比較すると、採草地におけるガス発生量と水の流出に伴う負荷量は、それぞれ放牧地の6.1および0.4倍である(図2図3)。
  3. 牛舎や堆肥盤等の施設群から発生する負荷量は、表面流去+地下浸透では採草地や放牧地と同等であり、ガスでは全草地の1.5倍に達する(図4)。
  4. 肥培管理法あるいは施設の整備により、畜産圃場の環境負荷を低減することが可能である。改良型スラリー散布法(土壌注入+硝化抑制材添加)と堆肥盤におけるれき汁の貯留およびばっ気槽の密閉化により、アンモニア揮散では現状の年間3,000kgNから1,200kgN(現状の41%)へ、地下浸透では1,200kgNから620kgN(同52%)に削減できる。さらに、牧草に吸収されずに揮散するアンモニア量が減少することにより、化学肥料の購入量も節減できる。
  5. 草地から発生するha当たりの環境負荷窒素量は、年間25〜32kgNである。これは、タマネギ畑(50kgN)に比べると明らかに低く、水田(24kgN)と同等からやや高い値である。しかしながら、草地に牛舎等の施設を加えた畜産圃場全体では環境負荷窒素量は53kgN/ha/yrであり、タマネギ畑とほぼ同等の値を示す。すなわち、草地に施設群を含めると、酪農経営の環境負荷は必ずしも小さくないと言える。このことは、環境保全上、牛舎等施設の管理の重要性を示唆するものである。

[成果の活用面・留意点]
    この成果は、北海道立根釧農業試験場畜産圃場を一つの酪農経営単位とみなした場合の窒素フローであり、個々の酪農経営に直接当てはまるものではない。

[平成10年度北海道農業試験会議成績会議における課題名および区分]
課題名:酪農経営における窒素フロー−根釧農試における事例−(指導参考)

[その他]
研究課題名:酪農経営における窒素フローの把握−適正飼養密度設定のための予備試験−
予算区分 :道単
研究期間 :平成10年度(平成8〜10年度)
発表論文等:甲田裕幸・宝示戸雅之,根釧地方の火山性土に作成した素堀りラグーンにおけるスラリー中窒素の消長,日本土壌肥料学会講演要旨集,第44集,p.271,1998

戻る