高温誘導性APX遺伝子によるイネ幼苗の低温枯死耐性の強化


[要約]
イネ幼苗を高温処理すると、低温枯死耐性が著しく高まる。この現象に高温誘導性のアスコルビン酸パーオキシダーゼ遺伝子(APXa)が関与していることを発見し、同遺伝子を利用したイネの低温枯死耐性の強化法を開発した。
北海道農業試験場・地域基盤研究部・冷害生理研究室
北海道グリーンバイオ研究所
[連絡先]011-857-9312
[部会名]基盤研究
[専門]バイテク
[対象]稲類
[分類]研究
[背景・ねらい]
北海道のイネの直播栽培を安定化するためには、生育初期の低温耐性を強化することが極めて重要である。これまでに、イネ幼苗を高温処理すると、低温枯死耐性が著しく高まることが明らかとなっている。そこで本研究では、高温処理による低温耐性発現機構を明らかにし、関与遺伝子を単離することによって、イネの低温枯死耐性強化法を開発する。
[成果の内容・特徴]
  1. 42℃6時間以上の処理でイネ幼苗の低温枯死耐性が著しく向上する(図1)。
  2. 活性酸素除去系酵素である、アスコルビン酸パーオキシダーゼ(APX)、カタラーゼ(CAT)及びスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)のうち、APXの活性のみが高温処理で向上する(図2)。
  3. APX遺伝子(APXa)のmRNA発現量は、42℃1時間処理で1.8倍に高まり、6, 9, 12及び24時間処理区でも有意に高い(図3)。従って、APXaの発現は高温によって転写レベルで誘導される。
  4. APXaのプロモーター7領域には、TATA-boxより81bp上流に、熱ショック転写因子(HSF)が結合するための最小限の熱ショックエレメント(HSE)のモチーフであるnGAAnnTTCnが存在する。従って、APXaは、このHSEを介して高温で誘導されている可能性が高い。
  5. APXaを過剰発現させた形質転換イネの低温枯死耐性が、原品種「ゆきひかり」よりも顕著に高いことから、低温枯死耐性向上にAPXaが関与していることが明らかであり、同遺伝子を利用して、イネの低温枯死耐性を強化できる(図4)。
[成果の活用面・留意点]
  1. 高温誘導性APXaをイネの生育初期における低温枯死耐性の強化のために利用できる。
  2. 高温誘導性APXaを利用したイネの低温枯死耐性の強化法に関しては、特許出願準備中である。
[その他]
研究課題名:耐冷性強化物質及び高温処理によるイネ幼苗の耐冷性獲得機構の解明と関与遺伝子の単離
予算区分 :ゲノム関係研究(形態・生理)
研究期間 :平成12年度(平成10年〜12年)
研究担当者:佐藤 裕
発表論文 :Heat shock mediated APX gene expression and protection against chilling injury in rice seedlings,
      Journal of Experimental Botany, 52, 145-151, 2001

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