寒冷地における水田パイプラインの配水シミュレーション手法


[要約]
圃場の水需要が時間的に集中しやすい寒冷地の水田パイプラインを対象として、給水栓ごとの流出量の経時変化を解析できるシミュレーション手法である。各種対策による不均等性の改善状況をシミュレーションによって検討できる。
[キーワード]
水田パイプライン、配水管理、冷害、シミュレーション
[担当]開土研・農業開発部・農業土木研究室
[連絡先]011-841-1764
[区分]北海道農業・総合研究
[分類]行政・普及
[背景・ねらい]
北海道のような寒冷地の水田では、圃場の水管理が冷害対策の有効な手段のひとつである。たとえば、活着期から幼穂形成期ころまでは、夜間や早朝に取水し、昼間は取水を停止するという間断取水が励行されている。用水路がパイプライン形式であれば、深夜の閉栓操作が必要な夜間取水をする圃場は少数であり、給水栓を開く時間帯は早朝に著しく集中する。そのため、一部の圃場では早朝に水圧が低下して、給水栓からの流出量が小さくなり、日中取水を余儀なくされることがある。このような不均等配水の改善のためには、圃場ごとの取水の進捗を計算して日中取水にならざるを得ない圃場を推定し、水利施設の改良など具体的対策を検討する必要がある。このような検討は、時間の経過を考慮しないこれまでの解析手法ではできないため、新たな手法を開発した。
[成果の内容・特徴]
  1. 従来、不均等配水対策の検討には、時間の経過を考慮しない流況計算(定常流解析)が用いられてきた。定常流解析からは圃場ごとの水圧条件の優劣を知ることはできるが、各圃場で必要な水量を何時までに取水することができるかを知ることはできない。本成果の手法は、給水栓の開閉条件を変更しながら定常流解析を反復することで(図1)、時間の経過に伴う取水の進捗を追跡するものである。たとえば、水圧条件に恵まれている圃場での取水終了に伴って、他の給水栓からの流出量が増大していく状況などが再現できる(図2)。
  2. 相対的に水圧の高い支線パイプラインへの減圧弁の設置や支線間の番水(ローテーション灌漑)、水圧条件の劣る圃場への自動給水栓の設置など、各種対策の効果を計算により検討できる。
  3. 任意の時刻までの各圃場での取水充足度がマップ化できる(図3)。
[成果の活用面・留意点]
  1. パイプラインの基本的水理設計のあとで、配水管理上の問題点の抽出と対策を検討する際に活用できる。
  2. 取水充足度のマップは視覚的に理解しやすいため、設計担当者や土地改良区の技術者、受益農家などにより設計の適否を検討する場合の討議資料として活用できる。

[その他]
研究課題名:寒冷地の農業用水の効率的利用に関する研究
予算区分 :運営費交付金
研究期間 :2001〜2005年度
研究担当者:秀島好昭、中村和正、長谷川和彦
発表論文等:中村・長谷川(2002) 農土誌 70(4) 印刷中

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