テンサイ根腐病菌の完全世代形成により多様な体細胞和合性個体群が出現


[要約]
Rhizoctonia solani AG 2-2-IVの土壌由来菌株(テンサイ根腐病菌)は完全世代を形成することにより遺伝的に多様な体細胞和合性個体群(SCG)を生じる。担子胞子由来の葉の病斑からの菌株(葉腐病菌)は同質性で、単一のSCGであることが多い。
[キーワード]
Rhizoctonia solani、体細胞和合性個体群(SCG)、テンサイ、根腐病菌、葉腐病菌
[担当]北農研・生産環境部・病害研究室
[連絡先]011-857-9277
[区分]北海道農業・生産環境
[分類]科学・参考
[背景・ねらい]
テンサイ圃場では、Rhizoctonia solani AG 2-2-IV (完全世代 Thanatephorus cucumeris)の体細胞和合性の異なる個体群(Somatic Compatibility Group、SCG)が存在する。また、本菌はしばしば高温・多湿な条件下で完全世代を形成し、飛散した担子胞子により葉腐病を引き起こし、その罹病残渣を通して土壌に定着することが知られている。そこで、有性世代がSCG多様性の発現に関与するかどうかを調べた。
[成果の内容・特徴]
  1. テンサイ病斑から分離した菌株は、完全世代形成により単一のSCG(同質性)あるいは複数のSCG(異質性)を生じる(図1)。根部および葉柄基部からの菌株(根腐病菌)は、次世代で複数のSCGを生じる傾向がある。担子胞子由来の地上部病斑からの分離菌株(葉腐病菌)は土壌由来の分離菌(根腐病菌)と比較して、その後代のSCG構成は単純である。異質性の親株は完全世代を繰り返すことで容易に単一のSCGを生じる傾向にある(表1)。
  2. SCGの遺伝的特性が同質性な株は、完全世代10世代後あるいは各世代間の単胞子株はいずれにおいても、その遺伝的特性は同一である。
  3. 飛散胞子の混入を遮断したテンサイ圃場では、遺伝的に異質性の親株は、完全世代の形成により、多数のSCGの後代株を生じる。その結果、個体群の多様性が高くなる。一方、同質性の親株は単一のSCGの株を生じ、多様性は低い(表2)。これらの菌株は、いずれもテンサイに根腐病を起こす。
  4. 以上のことから、一般圃場においては、R.solani は完全世代の担子胞子の形成・飛散および感染・発病を通して、遺伝的に多様な個体群を形成する。
[成果の活用面・留意点]
  1. R.solani 個体群の動態解析は病原菌の伝搬、感染および定着等の解明に重要であり、これはその基礎データとして活用ができる。

[その他]
研究課題名:寒地畑作地帯におけるリゾクトニア病菌個体群の多様性発現機構の解明
予算区分 :交付金
研究期間 :1998〜2000年度
研究担当者:内藤繁男、島貫忠幸、加藤雅康、佐藤章夫
発表論文等:内藤(1998)日植病報64:332-333
      Naito(2000)3rd Intern. Sym. Rhizoctonia, Taiwang:2000
      内藤(2000)第20回伝染病談話会講要:109-119

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