LAMP法による牛受精卵性判別キットの開発


[要約]
新しい遺伝子増幅法であるLAMP法を利用して、簡易で迅速な牛受精卵の性判別技術を開発するとともにキット化を図り、その有効性を実証した。開発したキットは、63℃、35分でDNAを増幅し、反応液の白濁により簡易に増幅を検出できる。このキットを利用することで、性判別に要する時間を従来の約3時間から約1時間に短縮できる。
[キーワード]
  性判別、LAMP法、遺伝子増幅法、牛、受精卵、遺伝子診断、受精卵移植
[担当]道畜試・畜産工学部・遺伝子工学科、受精卵移植科 家畜生産部・育種科
[連絡先]電話01566-4-5321、電子メールh.hirayama@agri.pref.hokkaido.jp
[区分]北海道農業・畜産草地
[分類]技術・普及

[背景・ねらい]
現在、PCR法により性判別した牛受精卵を受胚牛に移植することにより、雌雄の子牛を産み分けることが可能になっている。しかし、PCR法はDNAの増幅と判定に時間がかかり、操作も煩雑であるという問題点がある。近年、迅速かつ簡易にDNAの増幅と検出が可能な新遺伝子増幅法(Loop-mediated Isothermal Amplification;LAMP) 法が開発された。そこで、このLAMP法と当場が特許取得した牛雄特異的DNA配列(S4)を組み合わせて、簡易で迅速に牛受精卵の性判別ができる技術を開発するとともに試薬のキット化を図る。
[成果の内容・特徴]
 
1. 雄特異的DNA配列(S4)および公開されている雌雄共通DNA配列から、LAMP用プライマーをそれぞれ3および15セット設計した。それらの中から、特異性、反応速度および検出感度の優れたプライマー(Primer−M1およびPrimer−C1)を選定した。
2. 反応温度は63℃が最適で、35分で濁度による増幅の検出が可能である。この条件で、精製DNAを試料とした場合、雄特異的DNAは0.5pgまで、雌雄共通DNAは0.01pgまで安定して検出できる。これは1細胞あたりのDNA量の1/10〜1/50に相当する。
3. DNA抽出法としては、NaOH法が判定率および一致率が高く、操作も簡便であることから最適である(表1)。試料として5細胞を採取すれば、DNA抽出後に−20℃で約1ヶ月の保存が可能である。
4. 上記1.〜3.において決定されたプライマー、反応温度および抽出方法により、キットを作製し(図1)、牛受精卵から採取した1細胞から5細胞を用いてキットの判定精度を検定した。本キットは、5細胞を用いると95%以上を正しく判定できる(表2)。
5. LAMP牛受精卵性判別キットは、−20℃で凍結保存することにより、すくなくとも9ヶ月間は検出感度の低下がみられない。
6. 性判別を行った61個の受精卵を受胚牛に移植した。35頭が受胎し、出生した33頭の子牛の性はすべて判定結果と一致した(表3)。
[成果の活用面・留意点]
 
1. 正確かつ効率的に性判別を行うために、増幅およびその判定は専用装置を使用して行う。
2. 性判別用に採取する細胞は、細胞数を正確に数えることは難しく、DNAが変性した細胞が含まれることもあるため、安全を見込んで10細胞以上を採取する。
3. 細胞からDNAを抽出した後は、直ちに性判別を実施することが望ましい。やむを得ずDNA抽出後に凍結保存(−20℃)する場合は1ヶ月以内に判定を行う。
[具体的データ]
 
[その他]
研究課題名: 牛受精卵の迅速、低コスト性判別キットの開発
予算区分: 道費(重点領域特研)
研究期間: 2001〜2002年度
研究担当者: 陰山聡一、澤井 健、繪野澤真樹、尾上貞雄、平山博樹、森安 悟、南橋 昭、山本裕介、森 清一、高野 弘(栄研化学)、高橋芳幸(北大)、堂地 修(酪大)、山科秀也(北海道農業開発公社)、松崎重範(ジェネティクス北海道)
発表論文等: 「牛胚の性判別用プライマーおよびそれを用いた牛の性判別方法(特願2002-085025)」として特許申請中


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