妊娠牛の血漿及び胎子胎盤中マトリックスメタロプロテアーゼ活性変化

[要約]

ホルスタイン種妊娠牛の血漿及び胎盤中proMMP-2、proMMP-9及びTIMP-2は分娩時に最高値になる。また餌中に0.3 ppmのセレンを添加すると、血漿中proMMP-2が高くなる傾向がみられる。

[キーワード]

ホルスタイン種乳牛、胎盤、マトリックスメタロプロテアーゼ、セレン

[担当] 北海道農研・自給飼料酪農研究チーム
[連絡先] 電話 011-857-9260,電子メール seikajouhou@ml.affrc.go.jp
[区分] 北海道農業・畜産草地、畜産草地
[分類] 研究・参考

[背景・ねらい]
 胎子娩出に至るシグナル伝達経路、娩出機構に関してはかなり理解されているが、胎子娩出後の胎盤の剥離及び胎盤排出機構についての情報は少ない。分娩後に胎盤が排出されない病態である胎盤停滞は子宮内膜炎の発生、産乳量の低下、受胎の遅延などを引き起こし、畜産農家に経済的な損失を与えている。胎盤排出過程の理解は胎盤停滞防止技術の開発につながる。さらに、プロスタグランジンを用いた分娩誘起の問題点である高率の胎盤停滞発生を防ぐ技術ができる可能性も考えられる。また必須微量ミネラルであるセレンは胎盤停滞低減効果を示すが、その作用機構は解っていない。
本試験では、胎子胎盤と母胎盤の剥離を担う候補と考えられているマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)とその生体内阻害因子TIMP(MMPの活性化にも必要な分子)のホルスタイン種妊娠牛における変化とセレン給与の効果を示す。
[成果の内容・特徴]
  1. ゼラチンザイモグラフィーを用いてマトリックスメタロプロテアーゼ及びTIMP-2活性の測定を行ったところ、血漿中のproMMP-2、proMMP-9は妊娠週齢とともに増加し、分娩時に最高値になる。胎子胎盤中proMMP-2も同じ傾向を示すが、proMMP-9とTIMP-2は分娩時にのみ観察される(図1)。
  2. ホルスタイン妊娠牛(初産n=5)に対して妊娠全期間、餌中に無機セレンを0.3 ppm混合すると、対照区(初産n=5)に対して血漿中proMMP-2が高くなる傾向(P=0.069)がある(図2)。一方、proMMP-9の増加は少ない。なお、血漿中セレン濃度はセレン添加区で妊娠全期間を通して有意に高くなる(P<0.001)。
  3. 血漿においても、胎子胎盤においてもproMMP-2、proMMP-9及びTIMP-2が分娩時に多くなることから、分娩後の胎盤剥離過程におけるマトリックスメタロプロテアーゼシステムの関与が推定される。またセレンはMMPの発現を増加させることによりシステムを補助する可能性がある。
[成果の活用面・留意点]
  1. 情報の少ない分娩時の胎盤剥離過程の理解に有用な情報となる。
[具体的データ]

 

 

[その他]
研究課題名 自給飼料の高度利用による高泌乳牛の精密飼養管理技術と泌乳持続性向上技術の開発
課題ID 212-g
予算区分 基盤研究費
研究期間 2003〜2006年度
研究担当者 鎌田八郎、上田靖子、村井勝
発表論文等 Kamada et al. (2003) Tropical and Subtropical Agroecosystems, 3, p505-508.