有機栽培野菜畑の窒素肥沃度指標の選定とその簡易分析法

[要約]

熱水抽出性窒素は、土壌の有機物分解能を反映した有機栽培野菜畑の窒素肥沃度指標として適当であり、またトリプトファンを標準物質として用いることで熱水抽出液の280 nm吸光度測定により簡易に分析可能である。

[キーワード]

有機栽培、野菜畑、土壌の有機物分解能、窒素肥沃度指標、簡易分析法

[担当] 中央農試・環境保全部・土壌生態科、上川農試・研究部・栽培環境科
[連絡先] 電話 0123-89-2580,電子メール smailto:seika@agri.pref.hokkaido.jp
[区分] 北海道農業・生産環境
[分類] 技術・参考

[背景・ねらい]
□有機栽培での作物の安定生産には、土壌が施用された有機物を旺盛に分解する能力(有機物分解能)を持つことが重要である。一方、有機物の分解は一般に土壌の窒素肥沃度と密接に関連すると指摘されていることから、土壌の有機物分解能は既往の窒素肥沃度指標で代用できる可能性がある。そこで、有機栽培野菜畑を対象に、土壌の有機物分解能を反映した窒素肥沃度指標を選定するとともに、その簡易分析法を開発する。
[成果の内容・特徴]
  1. 土壌に添加した麦稈の炭素無機化率(土壌の有機物分解能の指標)は、それらの土壌で無肥料栽培した牧草の窒素吸収量と有意な正の相関を示す(r = 0.889**)。このことは、有機栽培のように土壌の窒素供給能に強く依存する栽培体系での生産安定化には、土壌の有機物分解能が重要な役割を担うことを示唆している。
  2. 有機栽培、慣行栽培を問わず、熱水抽出性窒素は土壌に添加した麦稈の炭素無機化率と有意な正の相関を示すことから、土壌の有機物分解能を反映した窒素肥沃度指標として、熱水抽出性窒素が適当と判断される(図1)。
  3. 有機栽培たまねぎの収量は、土壌の熱水抽出性窒素が高まると増大する傾向にあることから、同窒素は有機栽培野菜畑の窒素肥沃度指標として妥当である(図2)。有機栽培たまねぎの目標収量(4400 kg/10a、慣行栽培の8割)と熱水抽出性窒素との関係から、土壌の有機物分解能を反映した同畑の窒素肥沃度目標値(暫定値)を熱水抽出性窒素で8mg/100g以上と設定する。
  4. 土壌の熱水抽出液の280 nm吸光度は、測定条件等によって吸光度測定値が変動するために標準物質を用いた補正が必要であるが、従来法で測定した熱水抽出性窒素との相関が高く、同窒素の簡易分析に利用可能である(図3)。
  5. 標準物質としてL-トリプトファンを用いた簡易測定法を図4のように開発した。280 nm吸光度のトリプトファン換算量をx(mg/L)とすると、熱水抽出性窒素は(1.04x+0.99) mg/100gで求まる。
[成果の活用面・留意点]
  1. 本成果は主として低地土と台地土の有機栽培たまねぎ畑を対象に得られたものである
  2. 有機栽培たまねぎ畑の窒素肥沃度目標値は暫定値とする。
  3. 熱水抽出性窒素の簡易分析法は低地土および台地土に適用できる。
[具体的データ]

 

 

 

 

[その他]
研究課題名 有機栽培における畑土壌の総合的窒素管理技術の確立
予算区分 道費
研究期間 2004〜2006年度
研究担当者 中辻敏朗、坂口雅己、小野寺政行、櫻井道彦
発表論文等