北海道の常時湛水連作田では稲わら残渣炭素の50%相当のCH4が発生する
[要約]
北海道道央の中干し、間断灌漑が行われていない常時湛水連作田では、鋤込まれる稲わら残渣量に対し発生するCH4は稲わら残渣量が多いほど有意に増加し、稲わら残渣の50%に相当する炭素がCH4として放出されている。
[キーワード]
[担当]北海道農研・寒地温暖化研究チーム
[代表連絡先]電話011-867-9260、電子メールseika-narch@naro.affrc.go.jp
[区分]北海道農業・生産環境、共通基盤・土壌肥料
[分類]研究・普及
[背景・ねらい]
京都議定書の削減目標達成のため温室効果ガス削減が急務である。日本の温室効果ガス総発生量の内、農業由来の寄与は2%あり、その内21%が水田からのメタン(CH4)発生に由来する。これまで、水田からのCH4発生に対し、中干し、間断灌漑という水管理技術に削減効果があること、稲わら残渣の鋤込みが発生を増加させることが報告されている。しかし、北海道では、収穫後の圃場の乾燥が進みにくいため、稲わら残渣を圃場に放置する場合が多く、また、積雪があるため、圃場に放置した稲わら残渣も分解が進行しにくい状況にある。水田にすき込まれた稲わら残渣に対するCH4発生の定量的評価は整理されていない。本研究では、北海道の米の主産地である北海道道央の、常時湛水で管理された連作田を対象に、鋤込まれた稲わら残渣量とCH4発生量の関係を明らかにする。
[成果の内容・特徴]
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CH4フラックスは、5mg C m-2 hr-1から72 mg C m-2
hr-1の範囲にあり、落水直後はいずれの圃場も速やかにCH4フラックスは低下し、収穫時期にかけてフラックスはほぼ0で推移する(図1)。
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CH4発生量は、1%水準で、稲わら残渣量が多くなるほど有意に増加する傾向がある(表1)。一方、調査圃場の土壌炭素量とCH4発生量の間には、有意な相関関係は認められない。
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稲わら残渣による炭素量とCH4フラックスの間には、1%水準で正の有意な相関関係が認められる(図2)。この関係式から、稲わら残渣に含まれる炭素の約50%に相当する炭素がCH4として放出される。本成果から、稲わら残渣の鋤込み量からCH4発生量の予測が可能である。
[成果の活用面・留意点]
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籾わら比のデータを活用することにより、CH4発生量を高い精度で推定することが可能であり、温室効果ガス発生量のインベントリ精緻化に貢献出来る。
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本成果は、稲わら残渣を利用したバイオ燃料生産システムの、温室効果ガス排出削減効果をLCA評価する際に利用出来る。
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対象とした圃場は、低地土、グライ土、水管理は、中干し、間断灌漑を行わない常時湛水である。
- CH4フラックスの測定は水稲栽培期間に行ったものである。
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収穫後の刈り株はいずれの圃場においても鋤込まれている。
[具体的データ]
[その他]
研究課題名:寒地における気候温暖化等環境変動に対応した農業生産管理技術の開発
課題ID:215-a.1
予算区分:基盤
研究期間:2003〜2008年度
研究担当者:永田 修、Habib M. Naser(北海道大)、田村さつき(北海道大)、
波多野隆介(北海道大)
発表論文等:Naser H. et al. (2007) Soil Sci. Plant Nutri. 53:95-101
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