搾乳牛舎パーラー排水処理のための伏流式人工湿地(ヨシ濾床)システム
[要約]
糞尿や洗剤などが混ざる比較的高濃度の搾乳牛舎パーラー排水を処理できる伏流式人工湿地(ヨシ濾床)を開発した。当システムは、排水中のBOD、SS、大腸菌を9割以上、全窒素や全リンを6〜8割低減し、冬季の寒冷な条件も含めて通年で浄化効果を発揮する。
[キーワード]
伏流式人工湿地、ヨシ濾床、畜産排水、搾乳牛舎パーラー排水、水質浄化
[担当]北海道農研・寒地温暖化研究チーム
[代表連絡先]電話011-857-9260、電子メールseika-narch@naro.affrc.go.jp
[区分]北海道農業・生産環境、共通基盤・土壌肥料
[分類]技術・普及
[背景・ねらい]
糞尿などが混ざるパーラー排水は処理が難しく水系汚染源となり易い。ヨシ濾床は主に低濃度生活排水の浄化法として世界に普及しつつある。ここでは目詰まり等の問題を克服し寒冷地で高濃度排水を処理でき、従来の機械的処理法より経済的な実用技術を提案する。
[成果の内容・特徴]
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本システムは、好気的な縦型および嫌気的な横型のヨシ濾床を組み合わせたもので、排水は自動サイホンにより間欠的に供給され、濾床間の水移動を担保するバイパス構造と浄化能力を高めるための循環ポンプを備える(図1)。
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濾床表面を覆う断熱資材には軽量浮遊資材(スーパーソルやALC)を用いることにより、ヨシの生育を促進し、目詰まりを防止する。濾床資材には、φ20〜50mmの大レキ、φ5〜20mmの小レキ、10%粒径0.25〜0.4mmの粗砂を用い、縦型は前段や下層ほど粒径を粗く、また横型は上層ほど粒径を粗くする。濾床の深さは60cm以上とする。
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有機物(BODやCOD)濃度は、濾床を1段通過する毎に概ね半減する。このことから原水の有機物濃度と処理水の目標濃度によって、必要な段数が計算できる(図2)。
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濾床の合計面積TA(m2)は、原水の日投入量をQ(m3/d)、BOD濃度をBOD in(mg/L)、濾床面積あたりの限界負荷量を25(gBOD/m2/d)として、TA=Q×BODin/25で求められる。通常COD(Cr)≒BOD×2なので、限界負荷量は50(gCOD/m2/d)でも代用できる。濾床の面積比は前段/後段≒2とし、横型濾床と循環の場合は縦型より広くする。
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有機物(BOD、COD)やSS、大腸菌の浄化率は9割以上で、全窒素や全リンの浄化率は6〜8割である(図3)。この効果は冬季も含めて通年で発揮される。
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上記の結果から処理水を目標濃度(BOD=100mg/l)未満とする伏流式人工湿地システムについて、牛舎のタイプや規模別の構成とコストの試算例を示す(表1)。
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本システムは、異なる気象・土壌条件にあるフリーストール式牛舎の道東K農場(少雪・火山性土、搾乳牛220〜300頭)、道北S農場(多雪・非火山性土、搾乳牛120〜130頭)においてそれぞれ3年間、2年間にわたり安定的に稼働している。
[成果の活用面・留意点]
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限界負荷量を超える有機物の投入は浄化率を下げるため、営農管理上分離できる糞尿や廃棄乳はシステムに投入しない。
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システ
ムの定期的管理として、隔壁を有する貯留槽の沈殿物の除去(年1〜2回程度)、濾床表面の交互乾燥(春〜秋
:週1回程度)、サイホンやポンプの動作確認が必要である。ヨシには目詰まりの軽減や冬季断熱などの効果があり、刈り取る必要はない。
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濾床資材は地域の土壌条件に応じたものを使用すれば良い(K農場では主に火山噴出物(軽石)、S農場では川砂利、海砂等を使用している)。
平成20年度北海道農業試験会議(成績会議)における課題名および区分
「搾乳牛舎パーラー排水処理のための伏流式人工湿地(ヨシ濾床)システム」(指導参考)
[具体的データ]
[その他]
研究課題名:寒地における気候温暖化等環境変動に対応した農業生産管理技術の開発
課題ID:215-a
予算区分:実用技術、農研機構重点研究
研究期間:2005〜2008年度
研究担当者:加藤邦彦・廣田知良、木場稔信・松本武彦(道立根釧農試)、家次秀浩((株)たすく)、井上京・プラディープシャルマ・吉友郁哉(北大農)、冨田邦彦(遠別町役場)
発表論文等:1)加藤ら「伏流式人工湿地システム」特許公開2008−68211
2)井上ら(2007)農業農村工学会資源循環研究部会論文集3号:37-45
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