牛体細胞クローン胚の遺伝子発現動態
[要約]
牛胚盤胞期胚1個から複数の遺伝子発現量解析が可能である。牛体細胞クローン胚でいくつかの遺伝子に発現異常が認められ、発生に伴って正常に発現するようになる遺伝子と、発現異常が継続する遺伝子の両方が存在する。
[キーワード]
[担当]道立畜試・基盤研究部・受精卵移植科、遺伝子工学科
[代表連絡先]電話0156-64-5321
[区分]北海道農業・畜産草地
[分類]研究・普及
[背景・ねらい]
体細胞クローン牛は、ドナー細胞の種類や細胞周期、活性化法などの違いによって核移植胚の遺伝子発現に差があると考えられる。また、同じ核移植法を用いても胚の遺伝子発現に差異があり、その差が産子の正常性に影響を及ぼしている可能性がある。移植前の初期胚の遺伝子発現解析が可能であれば、遺伝子発現パターンの違いによる産子作出効率(受胎率、流産発生率、産子の正常性)を検討することができ、移植に用いるクローン胚の評価および選別が可能となる。本課題では、体細胞クローン胚の評価・選別法の開発を目的とし、初期胚における遺伝子発現解析法の確立および遺伝子発現パターンの解明を行う。
[成果の内容・特徴]
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牛胚盤胞期胚1個に由来するRNAからリアルタイムPCR法により複数の遺伝子発現解析が可能である。胚の初期発生に関与するOct-4、IFN-τ、Glut-1、
IL-6遺伝子の発現量を解析したところ、Oct-4において体外受精胚が有意に高い。
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体細胞クローン胚のIGF-1r、IGF-2r遺伝子発現において個々の胚での発現量のバラツキが大きい。(図1)。また、体細胞クローン胚および体内受精胚の胚盤胞期および伸長期においてIGF-2rおよびIGFBP-3遺伝子の発現頻度が胚発生に伴い高くなる。IGFBP-2遺伝子は体細胞クローン胚と体内受精胚いずれも伸長期において発現量が急激に減少するが、両者の間に差はない。IGFBP-3遺伝子は、体内受精胚では伸長期に発現量が有意に増加するが、体細胞クローン胚では発現量の増加が認められない。(図2)。
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胚発生に伴う遺伝子発現の変化において、OCT-4遺伝子発現量は、胚盤胞期の体細胞クローン胚で有意に高いが、伸長期胚では体内受精胚と体細胞クローン胚に差は認められない。また胚盤胞期胚のFGF-4発現量は体細胞クローン胚が有意に低い値を示したが、伸長期胚では両区に差は認められない。
[成果の活用面・留意点]
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牛体細胞クローン胚では発現異常が認められる遺伝子が存在する。これは遺伝子診断による正常胚の選別法確立のための重要な知見として利用することができる。
平成20年度北海道農業試験会議(成績会議)における課題名および区分
「体細胞クローン受胎牛における分娩遅延の要因」(研究参考)
[具体的データ]
[その他]
研究課題名:牛体細胞クローン胚の遺伝子発現動態
(遺伝子情報を活用した正常に発育するクローン胚の評価・選別法の開発)
予算区分:外部資金(実用技術開発事業)
研究期間:2004〜2008年度
研究担当者:森安 悟、澤井 健、平山博樹、陰山聡一、尾上貞雄、南橋 昭、山本裕介
発表論文等:Sawai K et al. (2005) Cloning Stem Cells. 7(3):189-98.
Sawai K et al. (2007) J Reprod Dev. 53(1):77-86.
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