体細胞クローン受胎牛における分娩遅延の要因
[要約]
クローン胎子を受胎している受卵牛における分娩遅延の要因を示す。クローン胎子受胎牛の分娩遅延が起こる要因のひとつは、受胎牛の血中活性型/不活性型エストロジェン比が低いことで、これは胎盤における遺伝子発現異常に起因する。
[キーワード]
体細胞クローン、分娩遅延、コルチゾル、エストロジェン、胎盤
[担当]道立畜試・基盤研究部・受精卵移植科
[代表連絡先]電話0156-64-5321
[区分]北海道農業・畜産草地
[分類]研究・普及
[背景・ねらい]
道立畜試は黒毛和種種雄牛の体細胞クローン検定法の確立に取り組んでおり、クローン牛間での肉質の相似性が非常に高く、効率的かつ高精度に種雄候補牛の能力を推定できることを明らかにしている。しかし、現時点でクローン検定は実用化されておらず、その理由として流産率や生後の死亡率が高く、クローン子牛の生産効率が低いことがあげられる。また、クローン子牛は生時体重が増加する場合が多く、クローン胎子を受胎している受卵牛(クローン受胎牛)にみられる分娩遅延は難産を引き起こし、クローン子牛の生産効率を下げる一因となっている。本試験では、クローン子牛の生産効率の改善を目的として、クローン受胎牛における分娩遅延の要因解明を目指す。
[成果の内容・特徴]
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クローン子牛は、生時体重が有意に重く、生後7日目の生存率が有意に低い。胎子性コルチゾルは母体へ分娩を促すシグナルであるが、分娩後のクローン子牛は正常なコルチゾル生産能を示す(図1)。
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クローン受胎牛は、分娩前の血中活性型エストロジェン(E1およびE2)濃度が低いが、不活性型エストロジェン(E1S)濃度が高く、E1/E1S比が上昇しないために分娩遅延が発生する(図2)。P4濃度は分娩誘起処理後に正常に低下する。
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クローン受胎牛の胎盤におけるエストロジェンの新規合成(CYP19)および活性化(STS)に関する酵素の発現量に異常は無い。エストロジェンに硫黄分子を結合させ不活性化する酵素(SULT1E1)の高発現が、低いE1/E1S比の原因である(図3、表1)。
[成果の活用面・留意点]
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クローン受胎牛に適した分娩誘起法を開発するために、本試験の知見を活用する。
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クローン産子における生時体重の増加や生存率の低下を低減するための技術開発に、本試験の知見を活用する。
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牛の分娩時における胎盤機能を解明するために、本試験の知見を活用する。
平成20年度北海道農業試験会議(成績会議)における課題名および区分
「体細胞クローン受胎牛における分娩遅延の要因」(研究参考)[具体的データ]
[その他]
研究課題名:体細胞クローン胎子の胎盤機能に関する基礎研究:分娩遅延の要因解明
予算区分:外部資金(科研費)
研究期間:2006〜2008年度
研究担当者:平山博樹、森安 悟、南橋
昭、陰山聡一、澤井健、尾上貞雄、杉本昌仁、山本裕介、平山宗幸(家畜改良センター)、後藤裕司(家畜改良センター)、宮本明夫(帯広畜産大学)、高橋透(農業生物資源研究所)、牛澤浩一(農業生物資源研究所)
発表論文等:Hirayama H. et al. (2008) Reproduction. 136:639-647.
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