水稲無代かき作溝湛水散播法における浮き苗抑制のための播種後の水管理法
[要約]
作業能率が高い無代かき作溝湛水散播法において、「播種後極浅水管理→不完全葉期〜1葉期落水→冠根貫入後再入水(落水期間7日間程度)→浅水管理」とする改善水管理法は、過酸化石灰剤の無粉衣種子でも十分な苗立ち本数を得ることが出来る。
[キーワード]
[担当]道立中央農試・生産研究部・水田・転作科
[代表連絡先]電話0126-26-1518
[区分]北海道農業・水田・園芸作
[分類]研究・参考
[背景・ねらい]
水稲湛水直播の生産コストを低減し、播種作業の高能率化のために、過酸化石灰剤粉衣が不要で、代かきを省略して、ケンブリッジローラーによる作溝と、乗用型粒状物散布装置で播種を行う、「無代かき作溝湛水散播法」が期待される。しかし、鞘葉期から1葉期ごろまでは順調に発芽するものの、枯死や浮き苗が発生し、苗立ち本数が極めて少なくなる場合がある。そこで、苗立ちを安定化させるための播種後の水管理法を明らかにする。
[成果の内容・特徴]
- 2006年〜2008年の栽培試験の結果、苗立ち低下の要因は、気温の影響ではなく、落水処理(芽干し)開始時期や日数、および湛水時の水深が要因と考えられる(表1)。
- 鞘葉期からの落水は、落水後に枯死する個体が多く、苗立ち率は常時湛水区よりも低下する(図1)。
- 播種後水深を5〜10cmにすると浮き苗が多発し苗立ち本数が少なくなる(表1)。反面3〜5cmの極浅水にすると、常時湛水条件でも浮き苗は散見される程度に減少する。しかし、常時湛水処理は3日間落水処理に比べ、倒伏が懸念される水稲基部の持ち上がりが多い(図表省略)。
- 一方で、落水処理によって、水中を伸長していた種子根が土中へ貫入する。しかし、4cmを超えて水中を伸張していた種子根は土中に貫入しない場合がある(図表省略)。
- 常時湛水区において、葉令と種子根長の関係から、最も生育が早い個体の根長が4cmに達する時の葉令は不完全葉期〜1葉期頃である(図2)。
- 苗立ち本数は3日間落水区に比べ7日間落水区が多い傾向である(図3)。また、浮き苗や基部持ち上がりを抑制するためには、根が十分に貫入するまで落水する必要がある。無代かき水田は代かき水田に比べ土壌表面が明らかに粗く硬いため、本栽培法における落水処理は、代かき水田における芽干しに比べ長い期間が必要で、グライ土では7日間程度が目安と考えられる。
- 播種後の水管理を「播種後極浅水管理→不完全葉期〜1葉期落水芽干し開始→冠根貫入後再入水(7日間程度)→浅水管理」に改善した2009年では、過酸化石灰剤無粉衣の浸漬籾の苗立ち本数は213本/m2である(表1)。過酸化石灰剤粉衣種子による慣行の湛水直播に比べ、苗立ち本数は同等かやや優る(図表省略)。
[成果の活用面・留意点]
- 過酸化石灰剤無粉衣種子を利用した省力直播栽培に向けた試験研究に活用する。
平成21年度北海道農業試験会議(成績会議)における課題名および判定区分
「水稲無代かき作溝湛水散播法における播種後の水管理が苗立ちに及ぼす影響」(研究参考)
[具体的データ]
[その他]
研究課題名:北海道地域における高生産性水田輪作システムの確立
課題ID:211.k
予算区分:交付金プロ(北海道水稲・野菜営農)
研究期間:2007〜2009年度
研究担当者:佐々木亮、安積大治、熊谷聡、丹野久
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