ウシ乳腺上皮細胞の血管内皮増殖因子発現に及ぼす泌乳関連ホルモンの作用
[要約]
血管の新生や透過性を亢進する因子である血管内皮増殖因子(VEGF)の発現はウシ乳腺組織では乾乳期よりも泌中乳期に増大する。ウシ乳腺上皮細胞におけるVEGFの発現は泌乳関連ホルモンであるプロラクチン、グルココルチコイドによって促進される。
[キーワード]
泌乳牛、乳腺、乳腺上皮細胞、泌乳持続性、泌乳関連ホルモン
[担当]北海道農研・自給飼料酪農研究チーム
[代表連絡先]電話011-857-9260、電子メールseika-narch@naro.affrc.go.jp
[区分]北海道農業・畜産草地、畜産草地
[分類]研究・参考
[背景・ねらい]
乳汁は乳房に送られてくる血液成分をもとに乳腺上皮細胞で合成されるので、泌乳量を持続させるためには、相応の血流量の維持が不可欠である。血管内皮増殖因子(VEGF)は、血管の新生促進作用や透過性亢進作用を有しており、血管の発達・維持に中心的な役割を果すことがヒトやマウスにおいて知られている。しかしながら、ホルスタイン種の乳腺におけるそれらの科学的知見は少ない。泌乳の持続に関わるメカニズムの一つとして、乳腺の発達と乳合成を促進する泌乳関連ホルモンによるVEGF発現制御を解明する。
[成果の内容・特徴]
- 選択的スプライシングによって生じるVEGFのアイソフォームをRT-PCR法で解析した結果から、泌乳中期のホルスタイン種乳腺組織ではVEGF120、164、188が発現している(図1)。
- 3種類のアイソフォームcDNAの共通領域に対応するプライマーを用いたRT-PCR法の結果から、ホルスタイン種の乳腺組織におけるVEGFmRNAの発現は、泌乳中期に乾乳期の約3倍に増大する(図2)。
- ウシ乳腺上皮細胞におけるVEGFmRNAの発現は、ヒツジ脳下垂体由来プロラクチンと合成グルココルチコイドであるデキサメサゾンの同時処理で増大する(図3)。
[成果の活用面・留意点]
- ホルスタイン種の乳腺の発達制御メカニズムの解明において科学的知見となる。
- 泌乳持続性を向上させる育種改良、飼養管理技術の開発において、乳中VEGF濃度を指標とした乳腺の血管の発達、血流量と泌乳持続性との関係を解明するための基礎的データとなる。
- ウシ乳腺上皮細胞はホルスタイン種乳腺組織から採取し、10%ウシ胎子血清、インシュリン(5 g/ml)を含むDMEM培地で培養する。サブコンフルエントの状態の細胞をデキサメサゾン(5 g/ml)、プロラクチン(5 g/ml)で処理する。
[具体的データ]
[その他]
研究課題名:自給飼料の高度利用による高泌乳牛の精密飼養管理技術と泌乳持続性向上技術の開発
中課題整理番号:212g
予算区分:基盤、科研費
研究期間:2006〜2008年度
研究担当者:中島恵一、中村正斗、伊藤文彰、小酒井貴晴
発表論文等:Nakajima K. et al. (2009) Asian-Aust. J. Anim. Sci 22: 788-795
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