携帯型心電計による乳牛の低カルシウム血症の簡易判定法
[要約]
乳牛の低カルシウム血症の重症度は、携帯型心電計を用いてSS間隔に占めるST間隔割合の増加をみることで簡易に判定できる。
[キーワード]
[担当]道立畜試・基盤研究部・病態生理科
[代表連絡先]電話0156-64-5321
[区分]北海道農業・畜産草地
[分類]技術・普及
[背景・ねらい]
分娩前後の起立不能牛に発生の多い乳熱はカルシウム(Ca)剤の早期投与が、また、低Ca血症に起因しない起立不能牛には、寝返りさせるなどの農家による早期看護が重要である。酪農現場で低Ca血症を判定できれば、効率的治療と労力を集中した早期看護が可能となる。そこで、酪農現場で実施できる低Ca血症の簡易判定法を開発する。
[成果の内容・特徴]
- 十勝管内の酪農家75戸における分娩前後の起立不能牛141頭の原因疾病は、低Ca血症による乳熱が60%であり、残り40%は産道損傷、運動器傷害、産褥熱などの低Ca血症に起因しない起立不能牛である(表1)。
- エチレンジアミン4酢酸(EDTA)投与によって作出した低Ca血症牛4頭の心電図波形は、血中Ca濃度の低下にともないST間隔が延長し、その結果T波がSS間隔の前半から中間へ移動する。血中Ca濃度は、心電図ST間隔の逆数と強い正の相関(r=0.84)を、SS間隔の逆数と弱い正の相関(r=0.30)を示し、これらSTおよびSS間隔から算出した修正ST間隔(ST/√SS)の逆数(STcInv)は、血中Ca濃度と強い相関が得られる(r=0.92)。
- 正常分娩牛137頭および起立不能牛36頭の野外牛計173頭は、実験的低Ca血症牛と同様、血中Ca濃度が低下した牛ほど心電図ST間隔が延長する。STcInvによる血中Ca濃度の推定は、STcInv 2.56sec-1未満および3.15sec-1以上それぞれで、血中Ca濃度6.5mg/dl未満および6.5mg/dl以上と予測される(図1)。
- 血中Ca濃度5.0mg/dl未満の21頭の心電図波形はSTおよびSS間隔が延長し、SS間隔に占めるST間隔の割合が大きく、8.0mg/dl以上の61頭のそれと容易に識別できることから、酪農現場で実施できる携帯型心電計による低Ca血症の簡易判定法を示す(表2)。
[成果の活用面・留意点]
- 獣医師と農家が協力して本成果を利用することで、低Ca血症の重症度に応じた効率的な治療ができるようになるとともに、看護処置を特に必要とする起立不能牛を特定でき、早期看護が可能となる。
- このデータはすべてホルスタイン種牛から得られたものである。
平成21年度北海道農業試験会議(成績会議)における課題名および区分
「携帯型心電計による乳牛の低カルシウム血症の簡易判定法」(指導参考)
[具体的データ]
[その他]
研究課題名:乳牛のダウナー症候群の発生要因解明と早期対処技術の開発
予算区分:道費
研究期間:2007〜2009年度
研究担当者:伊藤 めぐみ、川本 哲、草刈 直仁
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