泥炭土水田における耕起由来のN2O排出量は0.30kgN2O-N/ha/年と見積もられる
[要約]
泥炭土水田、転換畑の年間亜酸化窒素排出量(kgN2O-N/ha)は、0.59、8.75である。この結果、有機質土壌の耕起に由来する水田からの亜酸化窒素排出量は、国独自の数値(0.30)が採用され、IPCCデフォルト値(8)による算出に比べ、見積りは大きく減少する。
[キーワード]
亜酸化窒素、耕起、泥炭土水田、泥炭土転換畑、有機質土壌
[担当]北海道農研・寒地温暖化研究チーム
[代表連絡先]電話011-857-9260、電子メールseika-narch@naro.affrc.go.jp
[区分]北海道農業・生産環境、共通基盤・土壌肥料
[分類]行政・普及
[背景・ねらい]
温室効果ガスインベントリは、温室効果ガス削減の基礎となる重要なデータベースである。有機質土壌(泥炭土・黒泥土)の耕起に由来する亜酸化窒素(N2O)の排出量については、これまで、IPCCのデフォルト値を使用してきた。しかし、水田作は畑作に比べ一般的に亜酸化窒素排出量が低くなることが知られているため、IPCCのデフォルト値を用いた場合、排出量を過大評価している可能性がある。本研究では、有機質土壌である泥炭土の水田、転換畑における亜酸化窒素排出量を評価する。
[成果の内容・特徴]
- 泥炭土水田圃場からの亜酸化窒素排出量は、-0.11〜1.51 kg N2O-N/ha/年の範囲にあり、平均値は0.59kg N2O-N/ha/年である(図1)。施肥由来の排出量を差し引いた耕起由来の亜酸化窒素排出量は-0.28〜1.27 kg N2O-N/ha/年の範囲にあり(表1)、IPCCのデフォルト値8kg N2O-N/ha/年に比べ著しく低い値である(図1)。
- 有機質土壌の耕起に由来する泥炭土水田からの亜酸化窒素排出量については、表1により、国独自の数値(0.30 kg N2O-N/ha/年、標準偏差±0.37)を設定することが可能となる。
- 泥炭土転換畑圃場からの亜酸化窒素排出量は、2.87〜13.6 kg N2O-N/ha/年の範囲にあり、平均値は8.75kg N2O-N/ha/年である(図1)。この値は、耕起由来とともに、施肥由来の亜酸化窒素排出量が含まれるが、IPCCが定める有機質土壌の耕起由来のデフォルト値8kg N2O-N/ha/年とほぼ等しい値である。
[成果の活用面・留意点]
- 我が国では、「黒泥土」と「泥炭土」の2種類を有機質土壌として取り扱っているが、本研究では、泥炭土のみを調査対象としている。
- 本成果により、有機質土壌の耕起に由来する水田からの亜酸化窒素排出量として、我が国独自の数値が設定されることとなり、これは、2009年4月に発行された日本国温室効果ガスインベントリ報告書(国立環境研究所温室効果ガスインベントリーオフィス編、環境省地球環境局地球温暖化対策課監修)に反映されている。
- 亜酸化窒素排出量は二酸化炭素量相当に換算し、IPCCデフォルト値の算出に比べて約61万t減少(2006年度)したことになる。これは、農業分野からの亜酸化窒素排出削減量の約2%に相当する。
- IPCCの基準から、耕起由来の亜酸化窒素排出量は、測定された亜酸化窒素排出量から施肥由来の排出量を差し引いた値と定義される。
- 有機質土壌を耕起することによる泥炭土畑からの亜酸化窒素排出量については、現行のIPCCのデフォルト値にほぼ等しいと想定される。
- 水田圃場においては、肥料、切り株由来の排出量の影響は排除されていない。また、調査対象の水田には復元田も含まれる。
[具体的データ]
[その他]
研究課題名:寒地における気候温暖化等環境変動に対応した農業生産管理技術の開発
中課題整理番号:215a.1
予算区分:基盤、委託プロ(温暖化)
研究期間:2002〜2009年度
研究担当者:永田 修、鮫島良次、杉戸智子、小林創平
目次へ戻る