Polymerase chain reaction(PCR)

Polymerase chain reaction(PCR)
メニュー
(1)原理と種類
(2)準備
(3)実際の手順
(4)注意点
(1) 原理 と種類
耐熱性DNAポリメラーゼ(主にTaq polymerase)と特異的プライマーを用いて、DNAの特定の領域を増幅する手法です。詳しくはこちらをご参照ください。植物ウイルスの場合、トマト黄化葉巻ウイルス(TYLCV)など一部のウイルスをのぞいてRNAウイルスですので、RT-PCRを行う場合がほとんどですが、基本はPCRですので、まずはこちらを一読してください。
(2) 準備(DNAの抽出はこちらをご覧ください)
機械
現在、反応のための機械(サーマルサイクラー)は各社から様々なものが販売されています。
サーマルサイクラーの種類と特徴
(A)(普通の)サーマルサイクラー
(B) グラジエント付きサーマルサイクラー
(C) リアルタイムサーマルサイクラー
Aは一般の用途用で価格も比較的安価です。BはAに温度勾配機能をつけたもので、反応条件の調整が容易になります。Cは通常のPCRにも使うことが出来ますが、定量を行うための検出器がついています。一般的な用途にはAの普通のサーマルサイクラーで十分で、価格は50〜100万円程度となっています。
どの機械がよいか
最近は、どのメーカーでも性能はほとんど変わらないので、価格と購入後のアフターケアで選んで良いと思います。当研究チームに導入されているものはABI9700 (ABI)、iCycler (BIO-RAD)、PC-818 (ASTEC)ですが、価格が安く、 耐久性と操作性が良いのでお勧めの機械はPC-818 (ASTEC)です。
試薬
PCRに必要な試薬はすべてキットに含まれています。PCRの試薬には、大きく分けて
(A)通常のPCR
(B)ホットスタート型
(C)Ready-to-go
の3つがあります。通常、複製酵素(Taq polymerase)は72℃前後で最大の活性を持つようになっていますが、室温でも1/100程度の活性を持ちます。このため、反応液を室温に長く置いておくと、非得意反応が生じやすくなります。Bのホットスタート型は複製酵素(Taq polymerase)が95℃程度に加熱されるまで活性を持たない工夫がされており、非得意反応を防ぐことが出来ます。Ready-to-goは反応に必要な試薬が特殊なビーズに入っており、操作が簡便ですが、若干感度が下がる傾向にあります。
また、通常のウイルス検出には関係がありませんが、複製酵素の違いにより増幅される末端形状や複製の信頼性が異なります(ここでは説明しません)。
プライマー
プライマーは非常に安価に合成することが出来ますが、 検出には特異的なプライマーが不可欠です。検出したいウイルスの特異的な配列は以下の方法で得ることが出来ます。
(A)ホームページ、文献等から探す
(B)経験者に教えてもらう
(C)塩基配列から設計する
塩基配列からプライマーを設計する方法の解説はこちら(近日公開)
器具
微量遠心機(可能なら冷却機能付)
マイクロチップ(20μl〜 200μl用)
PCRチューブ
(3) 実際の手順(基本的に混ぜるだけです)
1.試薬とプライマーを反応数+1倍して、チューブに混合する(試薬の組成に関しては、キットにより様々ですので、マニュアルに従ってください)0
2. PCRチューブに分注する
3.DNAテンプレートを加え、軽く遠心して試薬を落とす。
4.やさしく混合して、再度遠心して試薬を落とす。
5.必ず温度が95℃に達してから(Hot start酵素は除く)、装置にチューブをセットする。
(4) 注意点
反応条件について
PCRの反応は、
1. 変性(94〜96℃) 30秒
2. アニーリング(45〜60℃) 30秒
3. 伸張反応(72℃) 30〜120秒
の3ステップを繰り返すことで行われます。中でも反応の成否に関わる重要な要素が2.のアニーリングで、この時にサンプルのDNAとプライマーが特異的に結合することが必要です。アニーリング温度はプライマーの長さと塩基組成から推測できるTm値と呼ばれる温度を目安にTm値±5℃くらいがもっともよく反応すると思われます。最初はTm値と同じに設定して、増幅が得られなければ下げる、非得意増幅があれば上げると良いと思います。なお、通常のPCRは2本のプライマーを使いますが、Tm値の低い方にあわせてください。ただし、2つのTm値の違いが大きすぎるものは良くないと言われています。Tm値の計算には、Nearest-Neighbor法と呼ばれる近似法がもっとも良いとされています。ここに簡単に計算できる方法が紹介されています。
まれに変性やアニーリングに1〜2分行っている条件を見ますが、 通常は30秒で十分です。原理的には1秒でも大丈夫ですが、機械の温度と反応液の温度が一致するのに時間がかかるため、最低10秒は行った方が良いと思われます。伸張反応の長さは増幅するDNAの長さに比例して1 kbp (1000 bp)につき1分を目安としてください。
反応のサイクル数はPCRの場合、30~35サイクル、RT-PCRの場合は40〜45サイクルが基本ですが、多すぎてもあまり増幅効率は変わりません。
器具について
PCR反応前と反応後のピペットは必ず分けてください!
昔は、マイクロピペットは高価で共用していましたが、最近は一人で何本も使っていると思います。
電気泳動のサンプル注入やPCR産物の精製に用いたピペットを、反応液の調整に用いた場合、予期せぬ擬陽性を生じることがあります。PCRは目的の断片を数万倍に増幅すると言うことを忘れないでください。