九州の低標高地における周年放牧による低コスト肉用子牛(冬子)生産
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[要約]
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九州の低標高地において、夏期は妊娠中の黒毛和種繁殖牛を暖地型牧草(バヒアグラス)放牧を行い、冬期は授乳中の繁殖牛を寒地型牧草(イタリアンライグラス)放牧を行う無畜舎・周年放牧により、舎飼牛と同様の良好な発育を示す肉用子牛を補助飼料無給与で低コストで省力的に生産できる。
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- 周年放牧、肉用牛、暖地型牧草、寒地型牧草、飼育管理
- [担当]
- 九州沖縄農研・畜産飼料作研究部・草地管理利用研究室
[連絡先]096-242-7757
[区分]九州沖縄農業・畜産草地(草地飼料作)、畜産草地・永年草地・放牧
[分類]技術・普及
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[背景・ねらい]
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従来、放牧慣行のなかった九州の低標高地域(標高300m以下)において、肉用子牛の低コスト・省力生産を目指して、遊休農地等を利用した周年放牧技術の開発が要望されている。しかし、九州の低標高地における周年放牧については、ほとんど未解明である。そこで、九州の気象条件を有効に利用した暖地型牧草と寒地型牧草を組み合わせた周年放牧技術について標準飼養の舎飼牛を対照に検討した。
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[成果の内容・特徴]
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黒毛和種繁殖牛を夏期(5月〜10月)はバヒアグラス草地に、冬期(11月〜4月)はイタリアンライグラス草地に約3.0頭/haの放牧密度で補助飼料無給与で無畜舎・周年放牧できる。
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暖地型牧草であるバヒアグラスは夏期には草質が悪化し、特に、粗蛋白質含量は10%以下に低下する。それに対して、寒地型牧草であるイタリアンライグラスは冬期には良好な草質を示し、粗蛋白質含量は20%以上になる(図1)。
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夏期のバヒアグラス放牧期において、放牧牛の皮膚温は暑熱の影響を受け舎飼牛より高くなるが、体温は舎飼牛とほぼ等しく、血中代謝成分も舎飼牛と差異がなく黒毛和種妊娠牛は九州の夏期の高温に十分適応できる能力を有する(表1)。
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黒毛和種繁殖牛はバヒアグラス草地放牧(妊娠期)、イタリアンライグラス草地放牧(授乳期)の両放牧期とも良好な増体を示し、分娩後の繁殖機能も良好で1年1産が可能である(図1,表3)。
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九州の低標高地における冬期のイタリアンライグラス草地での現地分娩は新生子牛に大きな問題はなく、離乳時(4ヶ月齢)までの放牧子牛の日増体重(DG)は補助飼料無給与で約1.0kgと舎飼で濃厚飼料と乾草を自由採食の子牛と同等の良好な発育を示す(表2,表3)。
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[成果の活用面・留意点]
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九州地域の低標高地における秋〜冬分娩予定の肉用繁殖牛による子牛生産に適用できる。
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春〜夏分娩予定の肉用繁殖牛および未経産牛については未解明である。
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[具体的データ]
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図1 繁殖雌牛(経産牛)の体重の推移と牧草中タンパク質含量

表1 夏期のバヒアグラス放牧時における繁殖雌牛の体温及び血液性状1)

表2 冬季草地で現地分娩した子牛の分娩生態と体温・皮膚温の変化

表3 繁殖機能のおよび子牛生産性
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[その他]
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研究課題名:暖地における肉用牛の周年放牧が繁殖性および子牛の発育に及ぼす影響の解明
予算区分 :交付金(低コスト肉牛生産)
研究期間 :1997〜2003年度
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