ヤギによる傾斜草地の防火帯づくり
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[要約]
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防火帯づくりが困難なススキ優占の急傾斜草地において、およそ10a(防火帯の長さ約100mに相当)あたり3頭のヤギを夏季に3ヶ月間放牧することにより、地上部現存量を約2割まで低下させ、安全かつ省力的に防火帯をつくることができる。
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- イネ科野草、生態、山羊、防火帯、傾斜草地、放牧
- [担当]
- 九州沖縄農研・畜産飼料作研究部・草地管理利用研究室
[連絡先]096-242-7757
[区分]畜産草地・(永年草地・放牧)、九州沖縄農業・畜産草地(草地飼料作)
[分類]技術・参考
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[背景・ねらい]
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阿蘇久住等の野草地において、火入れ(野焼き)を実施するための防火帯づくり(輪地切り)には多くの労力を必要とする。平坦地や緩傾斜地では輪地切りを省力化するために機械や牛を用いた技術が開発されつつあるが、急傾斜地においては作業に危険を伴うにもかかわらず未だに人力に頼らざるを得ない。一方、ヤギは狭い急傾斜地でも容易に移動でき踏圧も小さく、土壌崩壊の危険性も少なく、木本類を含めて採食範囲が広い。そこで傾斜草地での防火帯作りにヤギの放牧が有効であることを明らかにする。
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[成果の内容・特徴]
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ヤギ放牧にあたって、野草が生育旺盛になる前の4月下旬までに、防火帯予定の傾斜草地を電気牧柵(約20cm間隔の4段張り)で囲む。
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ヤギ放牧を実施したススキ優占草地は、等高線にそった幅10m、平均斜度31度、最大斜度51度であるが、ヤギの移動に支障はない。
- 放牧を開始する6月上旬の植物群落の高さは約60cm、地上部現存量は280gDM/m2程度である(図1、表1)。
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ヤギ(ザーネン系雑種、約40kg/頭)3頭を、この草地内に6月上旬から約3ヶ月間放牧する(295頭・日/10a)ことにより、植物群落の被度は61%、高さは18cmまで低下する(表1)。とくに最優占種であるススキの被度、草丈の低下は著しい。
- ヤギ放牧によって地上部現存量は、放牧しなかった対照区の23%まで低下し、リター(地表有機物)を含めた地上可燃物も170gDM/m2ときわめて少ない(図1、表1)。
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ヤギの体重は出産等によりやや減少するが、脱柵もなく健康である(図2、図3)。
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[成果の活用面・留意点]
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輪地切り労力が不足し傾斜地が多い草地の防火帯づくりに活用できる。
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放牧するヤギは必ず放牧馴致を行う。ヤギは牛ほど水を必要としないが、放牧区内に雨水を貯める容器や簡易小屋を設置することが望ましい。
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[具体的データ]
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表1 放牧前後の植生変化

図1 放牧前後の地上部現存量の推移

図2 放牧期間中のヤギ3頭の体重推移

図3 傾斜草地でのヤギの放牧状況(8月22日)
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[その他]
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研究課題名:阿蘇久住地域の半自然草地における火入れ等人為圧による植物群落の構造と機能の変動
予算区分 :交付金
研究期間 :1999〜2003年度
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