温州萎縮ウイルスおよび近縁ウイルスの分類学的位置
- [要約]
- カンキツの重要ウイルスである温州萎縮ウイルス(SDV)は、新たに設立されたサドワウイルス属の代表種である。従来、SDVの近縁種とされたカンキツモザイクウイルス、ナツカン萎縮ウイルス、ネーブル斑葉モザイクウイルスは、SDVの系統である。
- [キーワード]
- カンキツ、ウイルス病、温州萎縮ウイルス、トラミカン、ウイルス分類学
- [担当]
- 九州沖縄農研・地域基盤研究部・病害遺伝子制御研究室
[代表連絡先]電話096-242-7730
[区分]九州沖縄農業・病害虫
[分類]科学・普及
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[背景・ねらい]
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温州萎縮ウイルス(SDV)はウンシュウミカンなどに激しい萎縮症状を起こし、また土壌伝染する難防除ウイルスである。SDVは性状の解明が遅れ、分類学上の位置が不明確で、ネポウイルス属の暫定種とされる。そこで、SDVおよび近縁種とされるカンキツモザイクウイルス(CiMV)、ナツカン萎縮ウイルス(NDV)、ネーブル斑葉モザイクウイルス(NIMV)の塩基配列と遺伝子構造を明らかにし、ネポウイルス属などと比較検討して、分類的位置を決定する。
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[成果の内容・特徴]
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SDVの遺伝子構造は、RNA1にNTP結合ヘリカーゼ、プロテアーゼ、RNA依存性RNAポリメラーゼのモチーフが、RNA2に細胞間移動関与タンパク質のモチーフと外被タンパク質遺伝子がそれぞれ5'から3'の方向に並んでいる点で、ネポウイルス属のトマト輪点ウイルス(ToRSV)やコモウイルス属のカウピーモザイクウイルス(CPMV)に類似している。しかし、外被タンパク質が2成分であることで、ネポウイルス属ToRSVとは区別される。また、コモウイルス属には認められない5'共通タンパク質を持つので、CPMVとも識別される(図1)。
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RNA依存性RNAポリメラーゼの保存領域のアミノ酸配列から作成した系統樹で、SDVはコモウイルス属やネポウイルス属のウイルスとは、クラスターを形成せず、独自の分岐をする(図2)。
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SDV、CiMV、NDV、NIMVの外被タンパク質の42K成分、22K成分のいずれも互いに77%から92%の相同性を示す(表1)。
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以上のことから、SDVは既報のどのウイルス属とも異なる新属(サドワウイルス属)の代表種で、CiMV、NDV、NIMVはSDVの系統として、分類される。
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[成果の活用面・留意点]
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サドワウイルス属は、第8次国際ウイルス分類委員会報告に正式な属として承認、記載されている。
- サドワウイルス属には、外国で性状が解明されたStrawberry latent ringspot virusとStrawberry mottle virusが含まれる。
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サドワウイルス属ウイルスの種の分類基準は生物学的、血清学的性状と外被タンパク質42K成分のアミノ酸配列の相同性(75%)である。
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サドワウイルス属は特定の科に所属しない。
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[具体的データ]
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図1 SDV(サドワウイルス属)、ToRSV(ネポウイルス属)、CPMV(コモウイルス属)の遺伝子構造の比較

図2 RNA依存性RNAポリメラーゼの保存領域のアミノ酸配列から作成した系統樹

表1 (a)外被タンパク質42K成分のアミノ酸配列の相同性(%)
表1 (b)外被タンパク質22K成分のアミノ酸配列の相同性(%)
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[その他]
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研究課題名:高感度・周年・大量検定法の開発
課題ID:07-08-01-05-24-05
予算区分 :高度化事業
研究期間 :2004〜2006年度
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