フタテンチビヨコバイの生活史パラメータと温暖化に伴う世代増加数予測
- [要約]
- フタテンチビヨコバイは高温耐性が強く成虫寿命が長い。卵と幼虫の発育零点は摂氏14.0度、卵〜産卵開始までの有効積算温量は340.3日度である。温暖化によって年平均気温が2℃上昇する場合、年間発生世代数は現在より1.3〜1.4世代増加すると予測される。
- [キーワード]
- 飼料作物、ワラビー萎縮症、高温耐性、発育零点、有効積算温度
- [担当]
- 九州沖縄農研・地域基盤研究部・害虫管理システム研究室
[代表連絡先]電話096-242-7731
[区分]九州沖縄農業・病害虫
[分類]科学・参考
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[背景・ねらい]
- フタテンチビヨコバイCicadulina bipunctataは九州中部を北限として熱帯・亜熱帯地域に広く分布する半翅目昆虫で、イネ科雑草に生息する。本種の吸汁によって、トウモロコシにワラビー萎縮症と呼ばれる生育抑制の被害が発生する。ワラビー萎縮症にかかると葉脈がこぶ状に隆起してゴール化し、新規の展開葉の成長が著しく抑制されるため、症状が激しい場合には収量が著しく低下する。2001年頃から九州中部において、飼料用二期作トウモロコシで被害発生地域が急速に拡大傾向にある。今後、地球温暖化等により発生世代数が増加し発生時期が早期化する場合には、現在は二期作目のみでみられる被害が、一期作目や食用コーンなどにも拡大する可能性がある。そこで、本種の温度発育反応と温度別の生活史パラメータを明らかにし、温暖化に伴う発生世代増加数を予測する。
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[成果の内容・特徴]
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摂氏34度の高温下においても卵・幼虫期ともに発育遅延が起こらないことから、本種の高温耐性は極めて強い(表1)。
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成虫寿命は摂氏25度では雌雄ともに50日を越え、ヨコバイ類としては長命である(表2)。
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純増殖率は摂氏25度で最大、内的自然増加率は摂氏31度で最大である(表3)。
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以上のように、高温耐性が強く成虫寿命が長いという特性を持つことから、温暖化によって発生時期が早期化するほど、ワラビー萎縮症の被害が拡大すると考えられる。
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発育零点(卵、幼虫)は摂氏14.0度、有効積算温量(卵〜産卵開始)は340.3日度である。
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IPCC(1996)のシナリオに基づき今後100年間で年平均気温が摂氏2度上昇すると仮定した場合、本種の年間発生世代数は現在(年3〜4世代と推定される)よりも熊本(年平均気温摂氏15度)で1.3世代、宮崎(年平均気温摂氏17度)で1.4世代増加すると予測される。
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[成果の活用面・留意点]
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得られた生活史パラメータは本種の発生時期の推定や増殖パターンの予測のための基礎データとして活用できる。
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[具体的データ]
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表1 イネ芽出し苗を餌とした場合のフタテンチビヨコバイ卵・幼虫期の温度別の発育日数

表2 イネ芽出し苗を餌とした時のフタテンチビヨコバイの温度別の成虫寿命と蔵卵数

表3 イネ芽出し苗を餌とした時のフタテンチビヨコバイの温度別の個体群パラメータ
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[その他]
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研究課題名:フタテンチビヨコバイによる飼料用とうもろこし被害機構の解明と品種抵抗性検定法の開発
課題ID:07-08-04-01-18-05
予算区分 :交付金
研究期間 :2004〜2005年度
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