潮風害による「ヒノヒカリ」「ヒヨクモチ」の減収および品質低下
- [要約]
- 2006年台風第13号の潮風による「ヒノヒカリ」と「ヒヨクモチ」の減収は、不稔籾数の増加と、枝梗の枯れによる登熟歩合の著しい低下によるものである。品質は充実不足のため著しく劣り、3等を確保するふるい目での収量は、防風区の1割以下である。
- [キーワード]
- 潮風害、登熟歩合、品質、減収
- [担当]
- 佐賀農業セ・栽培技術部・作物研究担当
[代表連絡先]電話0952-45-2141
[区分]九州沖縄農業・水田作
[分類]技術・参考
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[背景・ねらい]
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水稲の登熟期に襲来した台風により、2006年の水稲作は大きな被害を受け、佐賀県の作況指数は49で戦後最悪となった。台風第13号は9月17日に佐賀県を通過し、南南東の風50.3m/sの最大瞬間風速を観測した。この台風は有明海の満潮時刻と重なり、台風の雨量も極めて少なかったため、有明海沿岸の広い範囲に潮風害を引き起こした。今回の台風による減収と被害の様相を、海岸線から8kmに位置する佐賀県農業試験研究センター作況情報田の水稲を試料として明らかにする。
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[成果の内容・特徴]
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台風通過翌日の1穂当たりの塩分付着量は、「ヒノヒカリ」で0.65mg、「ヒヨクモチ」で0.38mgであり(データ略)、圃場の位置や草高、倒伏などにより異なる。通過直後から水稲は葉先の裂傷や葉縁部の枯れの他、穂軸や枝梗が枯れ上がりで白変し、籾の褐変はほとんどみられず、萎凋した状態となる。穂の枝梗が60%以上の枯れでは、登熟歩合は50%以下と著しく低い(図1)。
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潮風による収量への被害を防風区との比較で推定すると、被害区では不稔籾数が多く、登熟歩合や千粒重が低い(表1)。台風通過時、乳熟期頃の「ヒヨクモチ」が、糊熟期の「ヒノヒカリ」より不稔籾の発生が多い。また登熟は緩慢で、沈下籾数歩合も台風通過後、成熟期まで低く推移する(データ略)。
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玄米の粒厚は、「ヒノヒカリ」「ヒヨクモチ」とも平年より薄く、1991年、2004年の台風被害と比較しても薄い(図2)。
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品質は充実不足のため著しく劣り、ふるい目1.8mmでの検査等級は整粒が少なく規格外となる。3等の品質を確保するためには、「ヒノヒカリ」でふるい目を2.0mm、「ヒヨクモチ」では2.1mmとすることが必要であり、そのふるい目では防風区の1割以下の収量である(表2)。
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[成果の活用面・留意点]
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台風襲来時の出穂後日数は、「ヒノヒカリ」が23日、「ヒヨクモチ」が12日である。
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防風区は台風被害を回避するため、台風襲来時に防風枠(194cm×99cm、高さ153cmの合板製の囲いで、上部は白色の寒冷紗を二重にして被覆)による防風処理を行ったものである。
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1991年は潮風害をともなった大型の台風が襲来し作況指数は64、2004年は潮風害は発生しなかったが、5個の台風が襲来し、作況指数は80であった。
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穂の塩分付着量は、1圃場から20穂を採取し蒸留水で浸透後、イオンクロマトグラフィーで塩素濃度を測定した。
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[具体的データ]
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図1 ヒノヒカリの枝梗枯れの程度と登熟歩合

表1 水稲収量構成要素に及ぼす防風処理の影響

図2 2006年と過去の台風被害年とにおけるヒノヒカリ、ヒヨクモチの粒厚分布

表2 ふるい目別の収量〔kg/a〕と検査等級に及ぼす防風処理の影響
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[その他]
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研究課題名:主要作物の品質を含めた作況と災害技術対策試験
予算区分 :県単
研究期間 :2006年度
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