肥効調節型肥料を用いた1回追肥による小麦の子実タンパク質含有率向上
- [要約]
- 小麦に対して、溶出促進剤入りIBDUあるいは20日リニア型被覆尿素を、または30日シグモイド型被覆尿素を加えて1月下旬に追肥することで、標準栽培以上の子実タンパク質が得られ、以降の追肥を省略することが可能である。
- [キーワード]
- 小麦、タンパク質含有率、肥効調節型肥料
- [担当]
- 熊本農研セ・生産環境研・土壌肥料研究室
[代表連絡先]電話096-248-6447
[区分]九州沖縄農業・生産環境(土壌肥料)
[分類]技術・普及
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[背景・ねらい]
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小麦の品目横断的経営安定対策が施行され、価格に反映される小麦子実品質の向上が重要性を増している。しかし、一般的に九州産小麦は子実タンパク質含有率が低く、実需者の評価を落とす原因となっている。出穂後の実肥は子実タンパク質向上に有効であるが、労力を要し作業性も悪い。そこで、肥効調節型肥料のうち低温時でも溶出を示すタイプのものを用いて、追肥作業の省力化と子実タンパク質を向上させる施肥技術を確立する。
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[成果の内容・特徴]
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溶出促進剤入りIBDU(以下新IB)あるいは20日リニア型の被覆尿素(以下、被覆L20)を1月下旬に小麦栽培圃場に施肥すると、施肥から収穫期までの期間を通して徐々に窒素が溶出する。30日シグモイドタイプの被覆尿素(以下、被覆S30)を施用すると溶出抑制期間を経て3月から登熟期間後期まで溶出する(図1)。
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小麦に対して新IBあるいは被覆L20を窒素成分のうち35〜50%含む肥料を用いて、標準栽培の追肥2回分と同量の窒素を1月下旬に追肥することで、標準栽培と比較して、追肥作業を1回省くことができるとともに、子実の窒素吸収量は高まり、標準栽培並の子実収量が確保され、子実タンパク質含有率は同等以上となる(表1)。
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小麦に対して新IBあるいは被覆L20に被覆S30を窒素成分のうち55〜60%配合した肥料を用いて、標準栽培の追肥2回分と同量の窒素を1月下旬に追肥することで、追肥作業を1回省くことができるとともに、標準栽培以上の子実収量が確保され、子実タンパク質含有率は1%程度高まる(表1、表2)。
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上記2の肥料を、標準栽培の追肥2回に実肥を含めた窒素量を施用することで、子実収量ならびに窒素吸収量は増加し、子実タンパク質含有率をさらに高めることができる(表1、表2)。
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追肥に係る費用について同じ窒素施肥量の体系間で比較すると、肥料費は肥効調節型肥料を用いた体系が高くなるが、労働費を含めると遜色ない(表3)。
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[成果の活用面・留意点]
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追肥後には肥効を安定させるための土入れ作業を行うこと。麦踏みなどの基本技術は励行すること。
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それぞれの肥料組み合わせについて、すでにメーカーにより必要な配合がなされて製品化されている。
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品目横断的経営安定対策等において、子実タンパク質が基準値(9.7〜11.3%)を満たすことで品質評価区分が1ランク上がった場合、最大で子実収量60kg当たり650円(2007年度現在)の助成があるため、収益は大きく向上する。
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既存の子実タンパク質向上のための施肥技術{全量基肥施肥(平成15年度九州沖縄農業研究成果情報)、実肥施用}に本成果情報が加わる。農家はこの中から、コストや作業性あるいは省力化の程度を勘案しながら技術を選択することが可能である。
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[具体的データ]
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図1 1月下旬に施肥した各肥効調節型肥料の窒素累計溶出率(圃場埋設法による、2007年)

表1 小麦に対する溶出促進剤入りIBDUもしくは20日リニア型被覆尿素を用いた追肥の効果(場内試験)

表2 小麦に対する溶出促進剤入りIBDUを用いた追肥の効果(現地試験)

表3 追肥に係わる費用試算
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[その他]
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研究課題名:小麦に対する肥効調節型肥料を用いた追肥の効果
予算区分 :受託試験
研究期間 :2005〜2007年
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