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果樹ゲノム育種研究分野の概要
・落葉果樹類のDNAマーカー,分子遺伝,ゲノム育種に関する研究
・リンゴ等果樹における大量ゲノムデータの育種への利用に関する研究

・果樹の気候変動影響評価、温暖化対応技術の開発等
杉浦俊彦 (教授)
 果樹は、気候への適応性が狭く、青森のリンゴ、愛媛のウンシュウミカンなど、地域によって生産に好適な樹種が限られています。その中で、気候変動による様々な悪影響が顕在化しており、温暖化への対応は現在の果樹生産において、最も重要な課題となっています。

果樹は、一度、栽植されると数十年間同じ樹で生産を継続することから、将来の影響評価は、生産者にとって現時点で栽植すべき樹種・品種を選択する上で必要な情報となっています。そのため、果樹において、高温による影響を評価するモデルを開発するともに、シミュレーションによって、国内生産への影響を推定し、その結果をわかりやすく図示する地図の開発をしています。

また、温暖化に対する適応策として、気候変動の悪影響を緩和する栽培法や高温の影響を考慮した施肥管理を開発しています。 一方、温暖化の利用の観点や、温暖化が進行してウンシュウミカンの栽培が困難になった地域の代替作物として、亜熱帯果樹の導入に関する研究をしています。


    

左:温暖化影響の検証(リンゴ‘ふじ’)。
右:現在は南西諸島を中心に栽培されている亜熱帯性カンキツ(タンカン)の栽培適地は今後、東日本以西の沿岸部に広がる。

山本俊哉 (教授)
 日本の果樹生産の約半分を占めるバラ科果樹(ナシ,モモ,リンゴ,ビワ,ウメ,アンズ,オウトウなど)を対象にして,ゲノム解析研究を行っています.具体的には,DNAマーカーの開発,DNA鑑定,遺伝子地図の作成,有用形質の選抜マーカーの開発を行っています.

 DNA鑑定では,信頼度が高く,識別能力も高いSSRマーカー(別名マイクロサテライト,ヒトの親子鑑定で広く利用)をモモとナシで多数開発しました. モモでは,多くの枝変わり品種の由来が間違っていることが明らかとなり,ナシでも親子の関係が誤っている例が多く見られました(図3:PDF). 日本のナシ栽培の第2位を占める「豊水(ほうすい)」は,両親不詳となっていましたが,DNA鑑定により,交雑から約50年後に本当の親を突きとめること ができました.日本の栽培モモ品種の由来が,DNA鑑定の結果,「上海水蜜桃(しゃんはいすいみつとう)」と呼ばれる特定の中国由来の品種であることを明 らかにしました.DNA鑑定技術は,果樹の品種名の不当表示を抑制,外国からの果実の不法輸入を防止,品種登録や権利侵害でのトラブルを解決で期待されて います.

 モモ品種「赤芽(あかめ)」と「寿星桃(じゅせいとう)」の雑種集団を用いて,連鎖地図を作成しました(図4:PDF). ネコブセンチュウ抵抗性,葉色,花色,核の粘離性,核廻り色,樹高の有用形質の場所を位置付けることができ,またこれらの形質に連鎖するDNAマーカーを 取得することができました.さらに,果肉色,酸度,雄性不稔性の遺伝子座を特定することができました.これらの情報やDNAマーカーは,世代のサイクルが 長く栽培に広大な面積を要するモモの効率的品種育成に期待されています.モモで得られた連鎖地図やDNAマーカーは,モモと同じサクラ属に分類されるアー モンド,スモモ,ウメ,アンズ,オウトウ,サクラに利用することができ,属内でゲノム構造が保存されていることが明らかになりました.

 ナシでは,世界に先駆けて連鎖地図を作成しました.ニホンナシ品種「豊水(ほうすい)」のセイヨウナシ品種「バートレット」の雑種集団を用いて,詳細な 連鎖地図を作成しています.近縁種であるリンゴで開発されたSSRマーカーがナシで利用できること,SSRマーカー連鎖地図上の位置がナシvsリンゴでほ ぼ同じであり,両者でゲノム構造が保存されていることを明らかにしました.これらの情報は,同じナシ亜科に属するビワ,カリン,マルメロへの応用に利用で きます.また,ナシでは大量の発現遺伝子の塩基配列解析を開始しました.果実の発達,果実を特徴付ける遺伝子の単離と機能解明が期待されます.


國久 美由紀 (准教授)
近年の遺伝研究は、シーケンス技術の急発展により、過去に類を見ないスピードで進展しています。自分自身の全ゲノム配列を取得することも可能となった今、吐き出される大量のデータをどう活用し、生かしていくかが研究の成否を決めます。従来の遺伝解析技術に、これら新技術や大量データを加えながら、リンゴを主体としたバラ科果樹のゲノム解析を行い、育種に繋げる研究を行っています。

.優良品種「ふじ」の遺伝解析
  リンゴ品種「ふじ」は日持ち性と食味に優れ、国内および世界総生産量のトップを誇る優良品種です。このため、「ふじ」を親にした新品種が多く生み出されています。そこで「ふじ」のゲノム解読を行うことで、「ふじ」の染色体(DNA)がこれらの新品種にどのように遺伝していったのかを追跡しました(図1)。さらに、これらの新品種に受け継がれた「ふじ」の優秀な性質(日持ち性、蜜入りなど)と染色体部位とを比較することで、「ふじ」のどの染色体部位が、優良な性質を制御しているのかを明らかにしました(図2)。これにより、「ふじ」の日持ち性や蜜入りを受け継いだ実生を結実前の幼苗段階で選抜できる可能性が高まりました。

・「王林」「あかね」など国内品種の交配集団を用いた諸性質の遺伝解析
同じ交配親から生じた子供集団は、遺伝解析のための理想的な材料です。リンゴ育種の現場保有しているこれらの集団を利用して、収穫期、酸度、褐変性、さび、つる割れ、収穫前落果、果皮色などの原因となる染色体部位を特定しました(図3)。これらの知見を基にして、目的の性質を持った個体を得るための交配組合せの選定や、果実形質予測のための技術開発に取り組んでいます。