トピックス 動物行動管理グループ

  • 主に学術論文に発表された鳥害や野生動物関係の研究事例を紹介します。直接的な防除策の事例ではありませんので、悪しからず。
トピックスを利用する上での注意事項が載せてあります。
<目次>

最新トピックス

★カラスによるロールサイレージへの穴あけ対策

過去のトピックス

●鳥害対策や個体数管理に関するトピックス(紹介年月)

★シカによる植生への影響はなかなか複雑
★駆除でカワウは減らせるか?(2002年11月)
★狩猟はガンの個体数に影響するか?(2002年7月)
★ウをねぐらから追い出せば漁業被害も減る?(2002年6月)
★オオアオサギはナマズを食べる害鳥?(2002年4月)
★レーザー光線で鳥を追い払えるか?(2002年3月)
★農業形態の変化により鳥が減少!(2002年1月)

★捕っても捕っても減らない鳥!?(2001年12月)
★アントラキノンは水稲直播用忌避剤として有望!(2001年11月)
★紫外線は鳥害防除に使えるか?(2001年10月)
★薬(忌避剤)をお腹まで運べば効果満点!?(2001年9月)

●鳥の習性や生態に関するトピックス(紹介年月)

★メジロがこだわるのは果実の色、味、大きさ、それとも毒?
★定着個体と渡り個体がなぜ共存できるか?(2002年10月)
★食べ物を試行錯誤で学習する鳥(2002年7月)
★鳥の移動は謎だらけ!(2002年6月)
★紫外線が足りないと鳥はストレスを感じる(2002年5月)
★鳥だって味にはこだわる(2002年2月)
★ガンはムギの葉よりテンサイ(砂糖大根)がお好き!(2001年11月)
★鳥は天体観測も磁気コンパスもお手のもの!(2001年11月)
★電磁界で鳥の体重が増える!(2001年8月)


最新トピックス

★カラスによるロールサイレージへの穴あけ対策
 刈り取った牧草をプラスチックフィルムで密封して乳酸発酵させるロールベールサイレージを日本でもよく見かけるようになりました。ところが、カラスに穴を開けられる被害が発生します。穴から空気が入ると雑菌が増え、飼料としての質が低下するので、酪農家としては大問題です。この被害は海外でも発生しています。
 畜産の本場アイルランドでは、ロールベールサイレージは、圃場で作られてから数日のうちに貯蔵施設へ運ばれ、冬期の牛用飼料として使われます。牧草が刈られると、ミミズやガガンボを目当てにたくさんのカラス(ミヤマガラスとコクマルガラス)が集まってきて、理由は分かりませんが、近くに置かれているロールに穴を開けます。その後の長期貯蔵施設でも被害にあいます。そこで、さまざまな被害防止対策が試されました。
 圃場への仮置き中には、従来通り刈りあとにバラバラにロールを置くと被害にあいやすく(穴の数は平均でロール当たり22.2個)、刈り取っていないところへ集めて置けば被害がほとんど生じない(同0.5個)ことが分かりました。被害は1日目から生じるので、ロールを作ったらすぐに移す必要があります。ただ、どうせ運搬するなら貯蔵施設へ運んだ方がいいかもしれません。
 貯蔵施設(屋外)では、ロールの上1mと周囲をネットで覆うか、ロールの上0.5mの高さに0.5m間隔でテグスを張ると、被害を最小限に抑えられました。テグスは、2m間隔では効果がありませんでした。ロールの上面に大きな目玉模様を描いても無対策の約1/3まで被害を抑えられましたが、×印を描いたり、目玉風船を釣り下げたりしても被害は減りませんでした。
 まとめると、ロールを作ったらすぐに貯蔵施設に移し、ネットかテグスで物理的にカラスが近づきにくくするのが一番ということです。やはり、鳥害対策に王道はない、ということでしょうか。(2003年x月 藤岡)
元の論文
McNamara, K., O'Kiely, P., Whelan, J., Forristal, P.D. & Lenehan, J.J. (2002) Preventing bird damage to wrapped baled silage during short- and long-term storage. Wildl. Soc. Bull. 30:809-815.

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過去に紹介したトピックス


●鳥害対策や個体数管理に関するトピックス


★シカによる植生への影響はなかなか複雑
 当研究室の名称は2001年に「けもの」が加わって鳥獣害研究室になりましたので、少しずつ獣害の勉強もしています。今回は、ニホンジカにごく近縁のアカシカの話です。

 スコットランド北西部にあるラム島は、アカシカの研究で有名なところです。一度は絶滅したアカシカが1845年に再導入され、一時は1200〜1700頭にまで増えました。1957年には島ごと自然保護団体に買い取られ、現在では約100平方キロの島に千頭余りのアカシカが生息しています(参考:約10平方キロの金華山には約500頭のニホンジカが生息)。1991年からは、禁猟区、毎年雌雄の1/6間引き区、雄半減区、雌半減区、シカ低密度・少数捕獲区に分けて管理されてきました。このうち禁猟区は1972年から続けられています。区割りの境界にフェンスはありませんが、毎年春の個体数をもとに区ごとの目標に沿った管理(間引き)が行われてきたため、雌雄の密度は区によって違います。また、島の一部地域にはフェンスで囲まれたシカ排除区も設けられています。

 こうしたシカ密度の違う区やシカ排除区の間で植生などを比較したところ、海岸近くの生産性の高い草地については、シカ密度が高い区の方が植物の多様性が高いという結果になりました。これは、優占種であるFestuca属(イネ科の多年生草本)がシカに好んで食べられ、その結果、背の低い草本が生き残るためです。20年以上にわたってシカが捕獲されていない地区でも植生破壊は見られません。一方、沼沢地やヒースといった生産性の低い植生では、そもそもシカの密度は植生や植物の多様性にほとんど影響しませんでした。

 ラム島には植林地もありますが、この論文では樹木への影響はほとんど扱われていません。また、管理区ごとに環境が違うので、厳密な実験ではありません。ただ、シカが植生に与える影響は、地形や水分、土壌などの環境条件によって違う、ということは言えるでしょう。「捕食者がいない状況では人がシカの数を抑制しないと自然植生の破壊が進む」という話を耳にすることもありますが、できるだけ広い範囲での長期間にわたる実験で実証していく努力も必要でしょう。(2003年6月 藤岡)
元の論文
Virtanen, R., Edwards, G.R. & Crawley, M.J. (2002) Red deer management and vegetation on the Isle of Rum. J. Appl. Ecol. 39:572-583.


★駆除でカワウは減らせるか?
 ヨーロッパ北部に生息するカワウは、1970年頃には絶滅寸前まで減少していましたが、その後の個体数の急増とともに漁業被害が問題になり、多数が駆除されるなど、日本とよく似た状況になっています。現在の繁殖つがい数は10万を超えていますが、1992年頃から増加速度は鈍っています。生息密度の増加につれ、餌不足による頭打ちが生じているのです(以前のトピックス「捕っても捕っても減らない鳥!?」も参照)。
 生存率や繁殖率のデータをもとに個体数のモデルを作り、密度効果の強さを変えて検討したところ、密度効果が中程度〜強度に働いているとしたモデルが、実際の繁殖つがい数の傾向と一致し、個体数は飽和に向かう可能性が高いと考えられました。また、まだ繁殖に参加しない個体やその年生まれの若鳥を含む総個体数の推定値は、1999年9月時点で46万〜66万羽でした。
 このモデルを使って駆除の効果を検討すると、近年の年間駆除数(1万7000羽)、それよりも多い年間3万羽あるいは4万羽を毎年駆除した場合のいずれも、個体数は駆除しない場合より少し減るだけと考えられました。密度効果が働いている個体群では、駆除による個体数の減少が、生存率や繁殖率の増加によって埋め合わされてしまうためです。さらに多く、毎年5万羽を駆除し続けると20〜40年で絶滅のおそれがあるとの計算になりました。
 個体数に応じた駆除で目標値に保てる可能性も示されましたが、ヨーロッパ全体での慎重なモニタリングと、密度に応じた駆除を毎年続けなければなりません。また、駆除でカワウの個体数を減らしても、カワウにとって良い餌場である養魚場などに集まる個体数がそれに応じて減るとは限りません。著者らは、被害発生地でカワウを射殺してその場所の危険を悟らせるなどの被害回避策のほうが、駆除によってカワウの個体数を制御しようとするより費用対効果がよいだろうと指摘しています。(2002年11月 吉田)
元の論文
Frederiksen, M., Lebreton, J. -D. and Bregnballe, T. (2001) The interplay between culling and density-dependence in the great cormorant: a modelling approach. Journal of Applied Ecology 38:617-627.


★狩猟はガンの個体数に影響するか
 狩猟と個体数の関係について、「自然状態のままでも捕食や病気で死亡する個体がいるので、その分を狩猟で捕っても年間の死亡率や繁殖個体数は変わらない」という仮説があります。この仮説はガン類に当てはまるのでしょうか。

 カナダの北極圏で繁殖するハクガンのうち米国の大西洋岸で越冬する集団では、ほぼすべての個体が春と秋にカナダ・ケベック州のセントローレンス川沿いに集結します。1990〜1998年に繁殖地で3,890羽に首輪を付け、集結地と繁殖地で延べ13,657回再発見できました。このデータから季節別の死亡率を計算できます。さらに、集結地での航空センサスと狩猟記録によって冬の間に狩猟で死亡した個体の割合を推定しました。

 ハクガン(成鳥)の死亡率は、春から秋には平均で5.9%と低く、年による違いもありませんでした。それに対して、冬には4.5〜34.9%と年によってかなりの違いがありました。秋の個体数のうち4.7%〜11.8%が狩猟で死亡し、この割合が高い年ほど冬の死亡率が有意に高いという関係が認められました。つまり、「自然死+狩猟死」の死亡率は「自然死のみ」の死亡率より高いので、はじめの仮説は支持されませんでした。狩猟はハクガンの個体数を自然状態よりも抑えているのです。

 著者らは、この傾向は長寿の鳥では一般的だろうと述べています。しかし、はじめの仮説は、狩猟によって密度が下がれば残った個体の死亡率が低下して個体数が一定に保たれる集団を想定しているのに対し、調査対象のハクガンでは個体数が年々増加しています。つまり、この研究結果は死亡率が密度に依存していない特別な集団での事例なのかもしれません。(2002年7月 藤岡)
元の論文
Gauthier, G., Pradel, R., Menu, S. & Lebreton, J.-D. (2001) Seasonal survival of great snow geese and effect of hunting under dependence in sighting probability. Ecology 82:3105-3119.

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★ウをねぐらから追い出せば漁業被害も減る?
 以前にも紹介したように、ナマズの養殖が盛んなアメリカ南東部では日本のカワウによく似たミミヒメウによる食害が問題になっています。四国ぐらいの広さがあるミシシッピー州の「デルタ」地域には6万羽以上のミミヒメウが越冬し、約4万ヘクタールの養魚場での推定被害額は約6〜30億円に上ります。養殖業者らは養魚場でウを駆除するだけでなく、近くのねぐらからウを追い払っています。では、ねぐらからウを追い払えば養魚場へも来なくなるのでしょうか?

 50羽のウに電波発信機が取り付けられ、受信機を積み込んだ自動車と航空機による探索が繰り返されました。実際に追跡できたのは40羽で、昼間の居場所が延べ161カ所と夜のねぐらが延べ176カ所突き止められました。ねぐらから翌日昼間の位置までの平均距離は、雌で26km、雄で22kmに及びました。追い払いが行われたねぐらにいたウは、そうでないウよりも翌日に遠くまで飛んでいきました(31km対22km)。また、48時間以内に同じねぐらに戻った率も追い払いが行われたねぐらでは11%で、そうでないねぐらの81%よりずっと低くなりました。しかし、養魚場が多い東部地域から養魚場の少ない西部地域にまで移動することはありませんでした。つまり、追い払われたウは、養魚場の多い東部地域内をぐるぐる回っていただけだったのです。

 もともとミミヒメウでは越冬期間中にも数百キロ以上移動する例が知られています。東部地域のすべてのねぐらで一斉に追い払えば、ウはどこか養魚場のないところまで行ってくれるかもしれません。しかし、その確証もないし、コスト面からも現実的とは思えません。それにしても、ここまで調べるところは見習いたいところです。(2002年6月 藤岡)
元の論文
Tobin, M.E., King, D.T., Dorr, B.S., Werner, S.J. & Reinhold, D.S. (2002) Effect of roost harassment on cormorant movements and roosting in the delta region of Mississippi. Waterbirds 25:44-51.

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★オオアオサギはナマズを食べる害鳥?
 オオアオサギはアオサギによく似た大型のサギで、アメリカ合衆国ではナマズの養殖場での害鳥として問題となっています。オオアオサギの採食生態や養殖場の状態など詳しく調べると意外なことが分かりました。

 ミシシッピー州のいくつかのナマズ養殖場において調査を行ったところ、サギが多かった池は病気にかかったナマズが多い池、幼魚を育てている池でした。病気にかかったナマズはサギに捕食されやすく、幼魚はサギにとって利用しやすいサイズだと考えられました。また餌やりの時間にはナマズが水面近くに来るため、そのようなときにも多くなりました。
 常にサギが多い池で、サギがとったナマズの状態を調べると、85%が病気にかかっており、さらに76%が末期症状でした。一方、別の池において水面近くで餌を食べているナマズをサギがとった場合には、75%が健康であり、わずか3%のみが病気の末期症状と診断されました。

 サギによる捕食の大部分が病気のナマズであったことなどから、損害は予想より少ないか取るに足らないものと考えられました。水面近くに採餌に来ている健康なナマズが捕食されるのを防ぐには、1日に1回の餌やりのときに花火などを使って追い払えばよいと考えられました。また逆に、サギが常に多くいるような池ではナマズに病気が流行している可能性が高いことが分かるので、管理者にとって有効な情報をサギから得ることもできそうです。

 この地域ではサギの防除対策に1養殖場あたり年間平均4000ドルも使っていますが、上記のことから必要のない支出であると言えそうです。鳥害対策には相手をよく知ることも必要ですね。(2002年4月 山口)
元の論文
Glahn, J.M., Dorr, B., Harrel, J.B., & Khoo, L. (2002) Foraging ecology and depredation management of Great blue herons at Mississippi catfish farms. J. Wildl. Manage. 66: 194-201.

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★レーザー光線で鳥を追い払えるか?
 レーザー光線は減衰しにくく直進性が高いため、金属を焼くほどの強力なエネルギーを運ぶことができますが、ごく弱い出力のレーザー光線は一般使用が認められており、講演会でスクリーン上を指し示すポインタや距離計などに広く利用されています。これを鳥害対策に使えないでしょうか。

 飼育ケージの止まり木の上にレーザー光線を固定ないしは上下に動かして照らしても、コウウチョウ(ムクドリ大の鳥で北米にごくふつう)やホシムクドリ(ヨーロッパ原産のムクドリ近縁種)はまったく避けることはありませんでした。ドバトは、最初の5分間だけ避けました。

 それに対して、ガンカモ類には効果がありました。草地に野外ケージを設置し、その半分の区画では人が35m離れたところから20秒間隔でレーザー光線を鳥に当てたところ、カナダガンはレーザーが当てられない区画へ移動し、少しずつ慣れてしまうものの、80分間の平均でもレーザー照射区に留まっていたガンは9%だけでした。同様に、マガモもレーザー照射区を初めは避けていましたが、約20分で慣れて避けなくなってしまいました。

 著者たちは、さらに工夫を重ねればレーザー光線は鳥を追い払うのに使えるようになるだろうと述べています。しかし、そもそも明るいときには鳥はレーザーを気にしないので、以上の実験はすべて3ルックス以下という劇場内ぐらいの暗い条件で行われています。しかも、もともと光や車の音などに敏感なガンカモ類にしか効果がなく、そのガンカモ類に対しても慣れは生じていますから、農業現場での利用は難しいでしょう。(2002年3月 藤岡)
元の論文
Blackwell, B.F., Bernhardt, G.E., & Dolbeer, R.A. (2002) Lasers as nonlethal avian repellents. J. Wildl. Manage. 66:250-258.

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★農業形態の変化により鳥が減少!
 アメリカ合衆国には、ハゴロモガラス(Red-winged Blackbird)というムクドリくらいの大きさの鳥が生息しています。ハゴロモガラスは20世紀以前の農地拡大に伴い個体数を増加させ、トウモロコシなど穀類の害鳥として有名になりました。オハイオ州はアメリカの中でもハゴロモガラスの繁殖密度が高い地域ですが、1966年から1996年の30年間の調査の結果、繁殖個体数が半分以下に激減していることが分かりました。その原因を調べると、アルファルファ (ムラサキウマゴヤシ :マメ科の重要な牧草)以外の牧草地の減少、トウモロコシとダイズの耕作地の増加、牧草地の刈り取りが早くなったことが密接に関係していることが分かりました。これらのことによりハゴロモガラスの営巣に適した場所が減少したためです。一方、気候は関係がありませんでした。このように農業形態の変化がハゴロモガラスの生息数に大きく関わっていることが分かりました。

 農業形態の変化は、生息地や食物資源の消失や増加を通して鳥の個体数に変化をもたらします。ヨーロッパでは、ヒバリなど身近な農地の鳥の減少に農業形態の変化が関わっていることが明らかになってきています。日本では水稲作付面積の減少が顕著で鳥を含めた生物多様性への影響が心配されています。これを違う方向で考えれば、害鳥の個体数管理に農業形態を利用するということも考えられるのではないでしょうか。(2002年1月 山口)
元の論文
Blackwell, B.F. & Dolbeer, R.A. (2001) Decline of the Red-winged Blackbird population in Ohio correlated to changes in agriculture (1965-1996). J. of Wildlife Management 65: 661-667

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★捕っても捕っても減らない鳥!?
  日本でもカワウの増加がよく話題になりますが、アメリカやヨーロッパでもウ類などによる漁業被害が問題になり、多数の鳥が駆除されています。こうした駆除は鳥の個体数にどれだけ影響するのでしょう?

 米国農務省野生動物研究所の研究者らは、ナマズ類などの養殖が盛んなアメリカ南東部の9つの州で1987年〜95年の9年間の駆除数と、オーデュボン協会(野鳥保護団体)が毎年実施しているクリスマスカウントの結果を分析しました(論文1)。この間の総駆除数は64,011羽で、ミミヒメウ(生態的地位は日本のカワウと同じ)が55%、オオアオサギが21%、ダイサギが13%で、他は5%未満でした。

 これら3種の鳥について州ごとに毎年の駆除数とクリスマスカウントでの個体数の関係を分析すると、負の相関はまったく見つかりませんでした。たくさん駆除したからといって個体数が減ることはないのです。逆に、正の相関が一部(22例中8例)で見られたことから、むしろ鳥が増えると駆除数も増えるという関係のようです。駆除が個体数に影響していないのは、駆除数が北米での推定個体数の3%にも満たないためです。駆除によって特定の養殖場への飛来数を抑えることはできても、分布域全体で個体数を減らすまでには至っていないのです。

 一方、北西ヨーロッパでもカワウが急増し、現在の個体数は、1970年頃の約20倍、10万つがいと推定されています。やはり多数のカワウが駆除されていますが、その効果を検証しようにもまったく基礎データがない状態でした。そこで、1977年〜97年の21年間にデンマークのあるコロニーで雛の時に足環を付けられた11,169羽のカワウのデータが分析されました(論文2)。足環付きのカワウが生まれたコロニーで再確認された回数は、のべ18,238回になりました(同じ年に何回観察されても1回として)。この他に死体で回収された個体が1,687例ありました。これらのデータから生存率や定着率などを計算しました。
 成鳥や2歳鳥の生存率は、密度がそれほど高くなかった1980年代には安定して高い状態が続きましたが、カワウが高密度になった90年代には、寒い冬に顕著に低下しました。生まれたコロニーへ戻ってくる率も、80年代には安定して高く、90年代には低下しています。
 これらのデータは、カワウの個体数に密度効果が働いていることを示唆しています。カワウが急増してきたのは、一昔前の有毒物質や過剰な狩猟によっていったん少なくなった個体数が回復してきたためで、やがて冬の餌量が制限要因となって密度効果が働き、個体数増加は頭打ちになることが予測されます。

 これらの研究から、魚食性鳥類の個体数が冬の餌によって制限されていることや、駆除だけで個体数を減らすのがいかに大変かがうかがわれます。(2001年12月 藤岡)

※日本のカワウについても報告や論文がいくつか出ています。日本野鳥の会の会誌「野鳥」647号(2001年11月)にある「カワウとの共存をめざして」という特集が参考になるでしょう。
元の論文
(1) Belant, J.L., Tyson, L.A. & Mastrangelo, P.A. (2000) Effects of lethal control at aquaculture facilities on populations of piscivorous birds. Wildl. Soc. Bull. 28:379-384
(2) Frederiksen, M. & Bregnballe, T. (2000) Evidence for density-dependent survival in adult cormorants from a combined analysis of recoveries and resightings. J. Anim. Ecol. 69:737-752

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★アントラキノンは水稲直播用忌避剤として有望!
 水稲の直播栽培ではしばしば鳥害が問題になります。ほとんどすべてが直播で行われるアメリカ南部ではムクドリモドキ類による鳥害で毎年数百万ドルの損害が出ており、湛水状態で有効な忌避剤の開発が期待されています。

 アメリカ農務省の野生動物研究所では、アントラキノンに注目し、ムクドリモドキ類2種に対する忌避効果を研究してきました(元の論文1)。アントラキノン50%含む水和剤を、有効成分の重量比で0.5〜1%の割合でイネ籾に粉衣したものを飼育下の鳥に与えると、ほとんど食べられないことがわかりました。さらに、大きな野外ケージで、アントラキノン処理籾とソルガムを撒いて与えると、鳥は処理籾をほとんど食べず、あまり好きでないソルガムを食べました。そこで、実際に鳥害に困っている2地域の直播水田でアントラキノン処理籾と無処理籾を播種したところ、処理籾播種区で有意に苗立ち数が多くなりました。

 著者らは、アントラキノンはコスト的にもヘクタール当たり30ドル程度と安く、イネへの薬害もなく、毒性も比較的低いことから十分実用性があり、実際に登録されるかどうかは農薬メーカーとイネ生産者にゆだねられているとしています。

 アントラキノンを播種後に散布することも試みられましたが、圃場レベルでは効果が確認されませんでした(元の論文2)。

 なお、アントラキノンは、キノン類の一つで、ベンゼン環を3つ持ちます。ベンゼン環にメチル基や水酸基などが結合した誘導体が多数あり、アントラキノン類と総称されます。高等植物や昆虫類に広く含まれ、アロエやダイオウに含まれる薬効成分やアカネ科植物から取られる天然染料成分(茜)です。現在でも下剤や赤色系の顔料、食用色素として広く使われています。アメリカでは芝生を食害するシジュウカラガン対策用に登録されています(商品名「Flight Control」、有効成分=アントラキノン50%)。化学構造や毒性等については、(独立行政法人)製品評価技術基盤機構の化学物質管理センターに情報があります。(2001年11月 藤岡)
元の論文
(1) Avery, M.L., Humphrey, J.S.,Primus, T.M., Decker, D.G. & McGrane, A.P. (1998) Anthraquinone protects rice seed from birds. Crop Protection 17:225-230.
(2) Avery, M.L., Tillman, E.A., Humphrey, J.S., Cummings, J.L., York, D.L., Davis, J.E., Jr. (2000) Evaluation of overspraying as an alternative to seed treatment for application of Flight Control bird repellent to newly planted rice. Crop Protection 19:225-230.

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★紫外線は鳥害防除に使えるか?
 紫外線や超音波など人に感知出来ないものを使って鳥を追い払えないだろうかという質問が私たちの研究室によく来ます。以下に紹介する研究は、鳥にとって紫外線が餌を見つけたり、おいしくない餌を学習したりする手がかりとなるかをシジュウカラを用いた実験により確かめたものです。

 1970年代頃までにはすでに多くの鳥で紫外線(320-400nm)が見えることが分かっていました。網膜上で色を感じる錐体細胞はヒトでは3種類なのに鳥では4種類あり、そのうちの1つで紫外線を感知しているようです。

 この実験ではアーモンドの切片を紫外線をよく反射する紙と反射しない紙に貼り付けて、鳥に選ばせました。その結果、鳥はどちらも同じように選び、紫外線を反射する方を避ける(またはよく食べる)ということはありませんでした。次に鳥にとっておいしくない餌を用意し、同じ方法で今度は学習効果を見ました。結果は紫外線により学習効果が増すということはありませんでした。

 つまり、鳥は紫外線を感知できるものの、食物を選ぶ手がかりとしては使っていないということです。だとすると、残念ながら防鳥機器に応用するのは無理なようです。(2001年10月 山口)
元の論文
Lyytinen, A.L., Alatalo, R.V., Lindstrom, L. & Mappes, J. (2001) Can ultraviolet cues function as aposematic signals? Behavioral Ecology 12: 65-70.

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★薬(忌避剤)をお腹まで運べば効果満点!?
 私たちの研究室でもここ数年鳥用忌避剤に着目していますが、効果の高いものは毒性が強くて環境への悪影響が懸念され、逆に毒性の低いものは効果が不安定なことが多いものです。毒性の低い薬でも効果を持続させる方法はないのでしょうか。

 アメリカでは広く使われてきたメチオカーブという忌避剤が、毒性が強いために使えなくなりました。一方、食品添加物としても使われ、毒性の低いアントラニル酸メチル(MA)に新しい忌避剤としての期待が高まっていますが、忌避効果が劣るのが難点です。

 鳥はメチオカーブで処理した餌を食べると一時的に病気になり、その餌を色や形で区別して二度と食べなくなります。一方、MAで処理した餌の場合、鳥は味覚や嗅覚でその餌を区別して食べません。その方が効果が高そうに思えますが、MAは野外で速やかに分解してしまうので、すぐに効果がなくなります。メチオカーブなら、餌に色を付けたりしておけば、メチオカーブが分解してしまっても効果が持続するのです。

 それなら、「味覚などで察知されずにMAを鳥に食べさせることができれば学習効果を引き出せるかもしれない」と考えたアメリカの研究者が、日本のムクドリに近縁のホシムクドリを使って次のような実験しました。MAを直接鳥の消化管にチューブに入れると、メチオカーブと同じように吐き戻しやせきなどの症状を示し、学習効果のため、摂食後24時間たったあとでも避効果が持続していたのです。

 もちろん、実際に野外で使うにはどうやって鳥に感じさせないで消化管に薬を届けるかといったいろいろな課題として残りますが、一つの可能性を示す研究です。(2001年9月 山口・藤岡)

(注)アントラニル酸メチル(MA)は鳥獣害研究室でもムクドリ等に対する忌避効果を試験しています。詳しくは課題・成果のページをご覧ください。
元の論文
Sayre, R.W. & Clark, L. (2001) Effect of primary and secondary repellents on European starlings: an initial assessment. J. Wildl. Manage. 63(3): 461-469.

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●鳥の習性や生態に関するトピックス

★メジロがこだわるのは果実の色、味、大きさ、それとも毒?
 以前に、食べ物の色そのものにはこだわらないツカツクリの例や、栄養豊かな時期の種子を好むキンカチョウの例を紹介しました。では、果実が大好きなハイムネメジロ(以下メジロ)は、何にこだわっているのでしょうか。

 文献(1)では、渋み成分であるタンニンを5%含む人工果実とタンニンを含まない人工果実を飼育下のメジロに与えたところ、意外にも摂食量には違いがありませんでした。ところが、穀物粉などからできた飼料で同じ実験をすると、タンニン入りの餌はほぼ完全に避けられました。メジロは、丸飲みにする果実ではタンニンを感知できないのかもしれません。文献(2)では、メジロが消化できない種子を入れた人工果実と入れない人工果実を与えました。透明な人工果実なら、メジロは種子のない果実をはるかに多く食べました。しかし、中を見えなくすると、選択性は大きく落ちました。文献(3)では、メジロに、赤と白と緑に着色した糖度15%の人工果実を与えたところ、色による摂食量の違いはわずかでした。緑だけを糖度30%にすると、緑の果実がよく食べられたことから、メジロは色よりも栄養(糖度)に反応していることがわかりました。また、果実の大きさは、飲み込める範囲では大きい方が好まれました。

 鳥はできるだけ効率よく栄養を採りたいので、適当な大きさで、糖度が高く、種子や毒の少ない果実を選ぼうとします。色については、背景とのコントラストが見つける効率に影響しているのでしょう(例:文献4)。人が栽培している果物は、彼らにとってこれらの条件を満たす大変なごちそうに違いありません。(2003年1月 藤岡)
元の論文
元の論文
(1) Stanley, M.C. & Lill, A. (2001) Response of silvereyes (Zosterops lateralis) to dietary tannins: the paradox of secondary metabolites in ripe fruit. Aust. J. Zool. 49:633-640.
(2) Stanley, M.C. & Lill, A. (2002) Importance of seed ingestion to an avian frugivore: an experimental approach to fruit choice based on seed load. Auk 119:175-184.
(3) Stanley, M.C., Smallwood, E. & Lill, A. (2002) The response of captive silvereyes (Zosterops lateralis) to the colour and size of fruit. Aust. J. Zool. 50:205-213.
(4) Burns, K.C. & Dalen, J.L. (2002) Foliage color contrasts and adaptive fruit color variation in a bird-dispersed plant community. Oikos 96:463-469.

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★定着個体と渡り個体がなぜ共存できるか?
 ヒヨドリのように、同種内に定着している個体と渡る個体がいる鳥は珍しくありません。スペイン南部には、ズグロムシクイというスズメほどの大きさの鳥が年中いますが、冬には北西ヨーロッパからも多数が渡ってきます。なぜ、ズグロムシクイでは定着個体と渡り個体が共存しているのでしょうか。

 ズグロムシクイの越冬環境である森とやぶの各数カ所で、500羽あまりを捕獲して体の大きさなどを測るとともに、植生や餌となる果実の分布を記録しました。定着個体と渡り個体は計測値(形態)でほぼ区別できます。定着個体はほとんど森にしかいませんでしたが、渡り個体は森とやぶの両方にいました。渡り個体では、森にいた個体の方がやぶにいた個体よりも成鳥の割合が高く、かつ成鳥でも幼鳥でも体が大きかったことから、森の方がやぶよりも優れた越冬環境のようでした。ただし、餌はやぶの方が多かったので、森には豊富な隠れ場所など、別の利点があると考えられます。

 定着個体に比べて渡り個体では成鳥に対する幼鳥の割合が高く、一腹卵数も多いことから、渡り個体の方が繁殖率が高いと思われます。しかし、定着個体は、競争力を高めることによって、越冬期に渡り個体よりも有利な生息環境を占めています。つまり、ズグロムシクイでは、同種内で繁殖率を高める生き方と冬の生存率を高める生き方が共存しているのです。ただし、冬の生存率が森とやぶで本当に違うかどうかや、渡りのコストについては調べられていないようです。(2002年10月 藤岡)
元の論文
Perez-Tris, J. Telleria, J.L. (2002) Migratory and sedentary blackcaps in sympatric non-breeding grounds: implications for the evolution of avian migration. J. Anim. Ecol. 71:211-224.

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★食べ物を試行錯誤で学習する鳥
 ふつう、若鳥は親や周りの個体のまねをしながら食べられるものを学習します。ところが、卵が地熱や落ち葉の発酵熱で孵化するツカツクリの仲間では、雛が孵化するときには親は近くにいません。雛はどうやって食べられるものを見分けるようになるのでしょうか。

 まず、サイコロ状に切ったメロン、ミールワーム(ペットの餌として売られている虫)、キビ、直径2-3mmの小石の4つから2つずつ選んで雛に与える実験をしました。ツカツクリの雛が最初につついたのは、多かった順にミールワーム→メロン→キビで、小石をつつくことはありませんでした。5分間の総つつき回数でもほぼ同じ傾向でした。

 次に、赤、青、黄、緑の4色のビーズのうち2色を雛に与える実験をしました。ツカツクリの雛は、黄色と青が与えられたときだけ、やや青を選ぶ傾向がありましたが、全体としては色によってつつく回数などには違いはありませんでした。

 これらの実験中、ツカツクリの雛は自分の爪や糞をつつくこともしばしばありました。こうしたことから、ツカツクリの雛は、動きや色、形で背景(この実験では木の床)から区別できるものをとりあえずつついてみるようで、色や形そのものはあまり重要でありません。これは、さまざまな生息環境でさまざまな餌を開拓するためには都合がいいのでしょう。あとはまさに試行錯誤で食べられるものを学習していくのです。(2002年7月 藤岡)
元の論文
Goth, A. & Proctor, H. (2002) Pecking preferences in hatchlings of the Australian brush-turkey, Alectura lathami (Megapodiidae): the role of food type and colour. Aust. J. Zool. 50:93-102

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★鳥の移動は謎だらけ!
 ヒヨドリでは、一年中同じ場所に住みついている個体と渡る個体がいるようです。北米の農地によく見られるフタオビチドリの移動パターンもなかなか複雑です。

 米国北西部のオレゴン州は冬に雨が多く、農地では多数のガンカモ類やシギ・チドリ類などの水鳥が越冬しています。初冬に捕獲された20羽のフタオビチドリに電波発信器を取り付けて、その動きを追跡しました。捕獲地点から半径10km以内では毎週チドリを探索し、さらに隔週に40km×110kmという広い範囲を航空機で探索しました。

 20羽のうち19羽が延べ453地点で確認されました。その19羽のうち26%は1月までに調査地からいなくなる「冬の通過者」で、63%は冬の間は調査地内にいた「冬季定着個体」、残りの11%はそのまま繁殖する「周年定着個体」でした。冬季定着個体は周年定着個体よりもずっと広い範囲を動いていました。

 フタオビチドリは、米国の南東部では大部分が周年定着しています。オレゴンで見られた移動パターンの違いは個体ごとに固定しているのか、変わりうるのかは分かっていません。気候がきびしい冬には個体数が減るそうなので、各個体が状況に応じて移動パターンを変えているのかもしれません。では、どういう時にどういう個体が、例えば「周年定着個体」になるのでしょうか。鳥の移動分散はまだまだ謎だらけです。(2002年6月 藤岡)
元の論文
Sanzenbacher, P.M. & Haig, S.M. (2002) Regional fidelity and movement patterns of wintering killdeer in an agricultural landscape. Waterbirds 25:16-25.

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★紫外線が足りないと鳥はストレスを感じる
 普通の電灯の光には、太陽光に比べて紫外線が少ししか含まれていません。紫外線が足りないと、鳥の生理状態や行動に変化が生じることがわかりました。紫外線はビタミンDを生成させるはたらきを持つので、他の動物にも重要ですが、鳥は紫外線を目で見ることができるので、より影響が大きいかもしれません。

野生から捕獲したホシムクドリを、紫外線を含まない照明と含む照明の飼育室で飼育し、2週間にわたって採血検査と行動の観察を行いました。紫外線を含まない照明で飼育したホシムクドリは、紫外線を含む照明で飼育したものに比べて、コルチコステロンというホルモンの血中濃度が高い値を示しました。コルチコステロンは、吹雪や餌不足などの突発的事態のときに分泌が増え、行動や代謝を変化させて危機を乗り切るのに役立つと考えられていますが、慢性的に濃度が高い場合はストレス状態を示すとされています。行動の観察でも、止まり木にいる時間が少なく、鳥カゴに飛びついたりカゴをつついたりする回数が多く、その場から逃げ出そうとする衝動を示していると考えられました。

著者らは、この結果はまだ予備試験的なものであり、紫外線の影響を、飼育下におかれることによるストレスから分けて評価するために、長期的な試験や、生まれたときから飼育した鳥を使った試験が必要であるとしています。(2002年5月 吉田)
元の論文
Maddocks, S. A., Goldsmith, A. R. and Cuthill, I. C. (2002) Behavioural and physiological effects of absence of ultraviolet wavelengths on European starlings Sturnus vulgaris. Journal of Avian Biology 33:103-106.

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★鳥だって味にはこだわる
 鳥の口の中には、味を感じる器官である味蕾の数が少ないことから、鳥の味覚はあまり発達していないと考えられています。人間の味蕾はおよそ1万個あるのに対し、ニワトリやハトには数十個の味蕾しかありません。では、鳥は味にこだわらずに餌を食べているのでしょうか?

 飼い鳥としてよく飼われているキンカチョウという小鳥がいます。原産地オーストラリアには、多数が野生で生息しています。小粒の草の実を食べるキンカチョウは、まだ青い未熟種子を好み、その繁殖時期は降雨と関係していることが知られています。

 未熟種子の餌としての価値を評価するために、キンカチョウの餌となる7種のイネ科雑草の未熟種子と完熟種子のほか、ライ麦粉、小麦粉、キビ粉、および全卵粉(アミノ酸バランスの良い比較対象)について、成長期の鳥に必要な10種類の必須アミノ酸の構成比を調べました。未熟種子と完熟種子のアミノ酸構成には統計的に有意な差があり、未熟種子には完熟種子に比べてリジンとトレオニンが多く含まれていました。完熟種子のタンパク質中のリジンとトレオニンの比率は全卵粉に比べて少なかったのに対し、未熟種子では同等かやや少ない程度でした。さらに、アミノ酸構成の似たもの同士を分類するクラスター分析を行ったところ、未熟種子はすべて全卵粉と同じグループに分類されたのに対し、完熟種子と穀物粉は1種類を除いて別グループに分類されました。

 キンカチョウの繁殖時期が降雨と関係しているのは、降雨後に育つ草の実を雛に与えて育てるためで、未熟種子は柔らかくて消化しやすいというだけではなく、いくつかの必須アミノ酸を多く含んでいました。

 鳥の味蕾の数が少ないとはいえ、餌に含まれる栄養には敏感なのです。実り始めたイネへの加害は、スズメは乳熟期、カルガモは黄熟期に多いとされていますが、イネの成熟に伴う栄養分の変化が関係しているのかもしれません。(2002年2月 吉田)
元の論文
Allen, L. R. and Hume, I. D. (1997) The importance of green seed in the nitrogen nutrition of the Zebra Finch Taeniopygia guttata. Australian Journal of Ecology 22:412-418.

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★ガンはムギの葉よりテンサイ(砂糖大根)がお好き!
 日本全国で越冬していた渡り鳥のガン(雁)は、狩猟と水辺の開発によって、1970年には数千羽まで減ってしまいました。1971年に全種の狩猟が禁止されてから、ガン類の個体数は徐々に回復し、近年はおよそ4万羽を数えています。いっぽう、渡来数の増加とともに、残された数少ない越冬地や渡り中継地の周辺では、ムギ葉への食害の問題も起こってきています。

 欧州においても、狩猟の制限と生息地の保護によってガン類の個体数は増加し、イギリスでは1960年頃に10万羽だった個体数が1990年頃には50万羽になりました。それとともにムギ葉や牧草への食害が問題になっています。

 イギリス東部の越冬地に渡来するコザクラバシガンについて、採餌場所の利用を調べました。コザクラバシガンは、ねぐらから10km以内の農地を主な採餌場所としており、これらの農地ではテンサイとムギ類が栽培されています。テンサイは9月から12月にかけて収穫され、コザクラバシガンは面積で約1割を占めるテンサイ収穫後の畑で8割以上の採餌を行い、取り残されたり砕けたりした根のくずを食べていました。秋播きのムギ畑での若葉への食害は、年によっては晩冬にかなり多く起こりました。

 この地域では3年の輪作体系が多く、その場合3年に一度はテンサイが栽培されますが、収穫後すぐに耕起して秋播きムギ類を育てる場合も多く、コザクラバシガンが利用できるテンサイ畑は多くありません。テンサイ収穫くずをそのまま残しておく畑を増やすことで、ムギ葉への食害を減らせると著者は考えています。(2001年11月 吉田)
元の論文
Gill, J. A. (1996) Habitat choice in pink-footed geese: quantifying the constraints determining winter site use. Journal of Applied Ecology 33:884-892.

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★鳥は天体観測も磁気コンパスもお手のもの!
 「磁石で地磁気を乱す」と称した防鳥機器がありますが、見渡せるような範囲を飛び回るのに鳥は地磁気を利用していません。では、もっと長距離を移動するときの方向定位についてはどこまでわかっているのでしょうか。

 伝書バトを使った研究が一番進んでいます。人工光で飼育して体内時計をずらしたハトを放すと、本来行くべき方向からずれた方向へ飛んでいくことが知られています。これは太陽コンパスを使っている証拠です。では、例えば体内時計が6時間早くなっているハトなら、反時計回りに90度ずれた方向に飛ぶのでしょうか。実は、ずれは予測の半分から2/3程度にしかなりません。
 新しい実験(元の論文1)では、体内時計をずらしたハトに小さな永久磁石を貼り付けて「磁気コンパス」の利用を妨げて放しました。すると、ハトは時計のずれから予測される方向へ飛んでいきました。つまり、ハトは太陽コンパスのずれを磁気コンパスで補正したのです。磁気コンパスで補正できるのは大人のハトだけなので、ハトは1〜2年かけて時刻によって変わる太陽の方向と時間では変わらない地磁気の関係を学習するようです。

 ハトは日中に長距離移動しますが、夜に渡る小鳥類は星の位置と地磁気から方向定位できることがわかっています。マダラヒタキはスズメよりも小さな小鳥で、北欧で繁殖して南欧からアフリカで冬を越します。マダラヒタキは夜に渡るのですが、高緯度地方では夏には白夜のためほとんど星が見えません。初めて渡りをする若鳥はどのようにして越冬地の方向を知るのでしょうか。
 マダラヒタキを雛のときから飼育して、秋の渡りの方向を調べた研究があります(元の論文2)。地磁気は自然状態にして人工光だけで飼育すると、秋には正しい渡りの方向だけでなく、その正反対へも向かおうとします。太陽光を入れても地磁気の影響を遮断すると同じでした。太陽光と地磁気の両方が自然状態で飼育された鳥だけが正しい方向だけに向きました。マダラヒタキは太陽の位置変化と地磁気のどちらかが欠けると渡りの方向を正しく決められないのです。マダラヒタキは、太陽コンパスの情報を夜でも使える磁気コンパスに結びつけることで方向を決めていると考えられています。

 鳥の方向定位能力は、星や太陽の観測と磁気コンパスを巧みに組み合わせた複雑なシステムなのです。(2001年11月 藤岡)

元の論文
(1) Wiltschko, R. & Wiltschko, W. (2001) Clock-shift experiments with homing pigeons: a compromise between solar and magnetic information? Behavioral Ecology and Sociobiology 49:393-400.
(2) Weindler, P., Bohme, F., Liepa, V. & Wiltschko, W. (1998) The role of daytime cues in the development of magnetic orientation in a night-migrating bird. Behavioral Ecology and Sociobiology 42:289-294.

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★電磁界で鳥の体重が増える!
 アメリカでもタカ類やカラス類が高圧鉄塔や電柱に営巣します。フェルニーとバードという人は、アメリカチョウゲンボウという小さなタカを使って、電磁界に長期間さらされた時の影響を調べました(文献は下記)。

 彼らは飼育室を二つ用意して、一つには735kVの高圧線の下に巣を作ったのと同じ状況である、30マイクロテスラ(μT)の磁界と10kV/mの電界をつくり、もう一方の飼育室は自然のままとして(2μT、0.03kV/m)、たくさんのチョウゲンボウを雌雄のペアでかごに入れて約3ヶ月間飼育し、体重を定期的に計測しました。

 その結果、雄では電磁界をかけた飼育室のチョウゲンボウの方が体重が重くなり、多くの個体が換羽(羽替わり)を始めました。雌ではそうした影響は認められませんでした。電磁界はメラトニンというホルモンを抑制し、光周期(季節感)が狂ってしまったのです。体重増加は換羽と関係した反応です。雄だけで影響が表れたのは、アメリカチョウゲンボウでは雌の方が数週間早く換羽を始めるため、光周期への反応が違っているためのようです。(2001年8月 藤岡)
元の論文
Fernie, K.J. & Bird, D.M. (1999) Effects of electromagnetic fields on body mass and food-intake of American kestrels. Condor 101:616-621


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