ホールクロップサイレージ用水稲新品種「クサホナミ」の栽培特性
[要約]
ホールクロップサイレージ用の水稲新品種「クサホナミ」は晩生で、5月中旬に移植すると、多肥条件での黄熟期乾物収量は平方メートル当たり1800gに達する。晩植による出穂の遅れは小さく、生育期間が短くなるため減収する。
[キーワード] |
晩生、多肥、黄熟期乾物収量、ホールクロップサイレージ、水稲 |
[担当] |
中央農研・関東東海総合研究部・総合研究第3チーム |
[連絡先] |
0298-38-8817 |
[区分] |
関東東海北陸農業・関東東海・水田畑作物、関東東海北陸農業・関東東海・総合研究 |
[分類] |
技術・普及 |
[背景・ねらい]
ホールクロップサイレージ用に育成されたクサホナミ(旧系統名:関東飼206号)は、高い乾物生産能力をもつと考えられ、今後の普及に向けてより幅広い条件で栽培し、生育特性を明らかにする必要がある。そこで、稚苗機械移植条件で、窒素施肥量を標準の3倍まで増加させて栽培するとともに、冬作物収穫後を想定した晩植栽培を行い、クサホナミの生育特性と黄熟期(出穂後35日)の乾物収量を調査する。
[成果の内容・特徴]
- クサホナミは、5月中旬に移植すると8月中旬に出穂するが、6月下旬の移植でも9月中旬には出穂し、晩植による出穂期の遅れが小さいことから、出穂期の決定に日長の及ぼす影響がやや強いと推定される(表1)。
- 穂数は施肥窒素量が多いほど多くなるが、10アール当たり27kgの多肥条件でも平方メートル当たり350本前後にとどまり、穂重型の生育を示す。6月下旬の移植では分げつ期茎数は少ないが、穂数は5月中旬移植と同程度となる。稈長は、施肥窒素量の増加に対応して長くなり、多肥条件では黄熟期になびく程度の倒伏が生じるが、登熟期間の天候によっては、稈長が100cm程度でも倒伏程度は大きくなる(表1、2)。
- 5月中旬移植での黄熟期乾物収量は、10アール当たり窒素施肥量18kgで、目標水準である平方メートル当たり1800gにほぼ到達し、窒素施肥量を27kgにすると、乾物収量はさらに増加する(表1、2)。6月下旬の移植では、図1の傾きで示される乾物重の増加速度は、出穂期までは5月中旬移植の多肥区とあまり変わらないが、生育期間が短いため出穂期全重は減少する。出穂期以降はより低温・少照条件となるため乾物重の増加が緩慢で、黄熟期乾物収量も低下する。6月初旬の移植でも、減収程度は小さいが、同様の傾向を示す(表1)。
- 以上の結果から、温暖地東部での移植栽培において、クサホナミの多収性を発揮させるためには、5月下旬までに移植し、10アール当たり18kg程度の窒素を施用することが望ましい。ただし、稈長が長くなるので、中干しを励行し、地力の高い圃場では追肥量を減らして倒伏を防止する必要がある。
[成果の活用面・留意点]
- この結果は、2000〜2001年に中央農研谷和原水田圃場で得られた結果であり、異なる気象・土壌条件の下での栽培にそのまま適用することはできない。
- クサホナミは、茎葉が過剰に繁茂すると紋枯病発病の危険性があり、注意する必要がある。
[具体的データ]
表1 クサホナミの栽培法と生育(試験期間の平均)
表2 各施肥法の10アール当たり窒素施肥量(kg、注記のないものは速効性肥料を使用)
[その他]
研究課題名 |
:極多肥条件下における乾物生産特性の解明と栽培技術の確立 |
予算区分 |
:21世紀3系 |
研究期間 |
:2001年度(1999〜2001年度) |
研究担当者 |
:石川哲也、井尻勉 |
発表論文等 |
:1) 石川・井尻 (2001) 日作関東支部報 16:36-37 |
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