データマイニングによる耕作放棄発生要因の解明


[要約]

静岡県における耕作放棄の発生要因を解明するため、データマイニングのルール生成アルゴリズムの一つである決定木(DicisionTree)による要因抽出を行った。作物特化係数と耕地条件の違いが耕作放棄の地域較差に大きく影響していること、輻輳した発生要因に対して決定木は優れた記述性と判別力を示すことが明らかとなった。

[キーワード] 耕作放棄、データマイニング、決定木
[担当] 静岡県農業試験場・企画経営部・経営情報研究
[連絡先] 0538-36-1553
[区分] 関東東海北陸農業・関東東海・経営、関東東海北陸農業・農業情報研究
[分類] 技術・参考

[背景・ねらい]

1980年代半ば以降、静岡県をはじめとする都市近郊の耕作放棄が急速に拡大しており、その要因分析と対策が農政上の重要な問題として位置づけられている。そこで、静岡県における耕作放棄の発生要因の抽出を行うため、近年、流通・金融等の分野で広く活用されているデータマイニングの手法の適用を試みた。

[成果の内容・特徴]

  1. 旧市町村を単位として、1995年農業センサスの調査項目と耕作放棄地率との相関分析を行ったが、いずれも単独では高い相関係数を示すものは認められなかった。
  2. そこで、これらの組合せによる要因抽出を行うこととし、まず相関分析で有意な相関が認められた8分類34項目の抽出を行った(表1)。
  3. 旧市町村の耕作放棄地率を「多い」から「少ない」までの5段階にカテゴリー化を行い目的変数とし、抽出された34項目を説明変数として、決定木(C5.0)によるクラス判別ツリーを求め、耕作放棄の発生要因について考察を行った(図1)。
  4. お茶の特化係数が高い地域(ブロックa)の耕作放棄は比較的少ない。特に、農業就業人口に占める女性の生産年齢人口割合が高い地域は、100%の確信度で耕作放棄は少ない。
    お茶の特化係数が低く、かつ農家人口の高齢者割合が低い地域(ブロックb)では、作物特化係数(花き・花き、果樹)及び耕地条件(区画整理実施面積割合、急傾斜地割合)により規定される。花き・花木及び果樹の産地で、耕地条件の不利な地域は耕作放棄が比較的多い。
    農家人口の高齢化率が高い地域(ブロックc)では、農用地区域の指定がなく、かつ田の急傾斜地割合が高い地域で100%の確信度で耕作放棄地が多いと分類される以外、いずれも確信度は低い。等々のルールが得られた。
  5. 以上のことから、耕作放棄の発生要因として農家人口の減少と高齢化を背景としながらも、静岡県においては作物特化係数と耕地条件がその地域較差を大きく増幅させていることが明らかとなった。
  6. 耕作放棄の発生要因に関する分析手法として、これまで重回帰分析など多変量解析の手法が用いられてきたが、輻輳した発生要因をif...then...形式の階層構造としてルールを生成する決定木は、優れた記述性と判別力を示すことが明らかとなった。

[成果の活用面・留意点]

  1. 今回得られた判別モデルは、県内市町村における耕作放棄防止対策あるいは地域特性に応じた活性化対策を講ずるうえで活用が可能である。
  2. なお、今回得られた分析モデルは1995年センサスによるものであり、2000年センサスによる検証を行い、判別モデルの一般化を図っていく必要がある。

[具体的データ]

[その他]

研究課題名 :農業生産構造及び食料消費動向分析に基づく地域農業動態の解明
予算区分 :県単
研究期間 :2001〜2003年度
研究担当者 :中川孝俊
発表論文等 :静岡県における耕作放棄の実態と発生要因、関東東海農業経営研究(投稿中)

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