稲作経営における商品在庫管理対策


[要約]

米を独自販売する稲作経営の商品在庫管理対策としては,1年分の販売量を確保するための資金を融資や一部の商品の販売によって調達する対応,商品保管場所を低コストで確保するための工夫,および過剰在庫を処分するタイミングなどが重要である。

[キーワード] 稲作経営,商品,在庫管理,マーケティング
[担当] 中央農研・北陸総合研究部・農業経営研究室
[連絡先] 0255-26-3231
[区分] 関東東海北陸農業・北陸・経営作業技術
[分類] 技術・参考

[背景・ねらい]

米は国民の主食であり,保存性があることなどから,米を独自販売する稲作経営の多くが周年販売を実施しており,それらの経営では不要在庫を的確に処分するなど,合理的な商品在庫管理対策が不可欠となっている。そこで,米の周年販売を行っている先進経営の実態調査に基づき,資金の調達,保管場所の確保および在庫処分の実施方法等に焦点をあて,稲作経営における米の在庫管理対策を明らかにする。

[成果の内容・特徴]

  1. 年間の販売量が2,000俵以上で,周年販売を行っているA〜C社の米の在庫管理に関する実態を調査し,以下の対策がとられていることを明らかにした(表1)。
    1. 商品在庫を確保するための資金や運転資金の確保という点では,A社では生産者への米代金を12カ月の分割払いにすることによって,商品の仕入れのために多額の資金を調達することを回避している。また,B社では金融機関からの借入,C社では収穫時に早稲品種を農協へ販売するなど,対応に工夫がみられる。
    2. 保管場所の確保やその効率的利用については,A社では各生産者に商品の一部を籾状態で保管させ,翌年の5月に再び納入させることによって倉庫の利用を2回転させている。また,B社では農協の倉庫を借用し,C社では加工場等の施設を利用するなど,それぞれ工夫をしているが,販売後に生じる空きスペースの有効活用は図られていない。
    3. いずれの経営においても,価格面では不利であるが,余剰在庫を抱えるリスクを回避するため,新米の収穫後は残った前年産米の処分を実施している。
  2. A社における月別取引先別販売量をみると,会員(個人客)への販売は安定しているが,12〜3月には販売先の決まらないものを資金調達をかねてに業者へ販売したため,販売量が多くなっている(図1)。C社の月別品目別販売量をみると,個人客への販売が期待できないコシヒカリ以外の品目を収穫直後に農協や業者へ販売して資金を確保している,12月はDMやチラシで新米の販売を促進している,さらに6,7月に過剰在庫の処分を実施するなどの対応がみられる。(図2)。
  3. 上記の分析結果を踏まえ,稲作経営における在庫管理の取り組みを販売戦略と関連づけ,1年を収穫後〜12月,1〜3月,4〜6月,7月〜収穫前の4期に分けて整理した(表2)。在庫管理を適切に実施するためには,資金の確保,季節で異なる消費動向および前年度の実績等を考慮に入れ,計画的に過剰在庫を処分することが重要である。

[成果の活用面・留意点]

  1. 稲作経営における在庫管理の状況は,マーケティング戦略の仕組みを明らかにする指標として利用できるため,稲作経営の販売活動を理解,指導することに活用できる。
  2. 比較的販売量の多い事例に関する分析結果である点に留意する必要がある。

[具体的データ]

[その他]

研究課題名

:稲作経営における米の在庫管理方式の解明

予算区分

:交付金

研究期間

:2000〜2001年度

研究担当者

:齋藤仁藏

発表論文等

:(1)日本農業経営学会にて発表[平成13年度日本農業経営学会研究大会報告要旨,p142]
  (2)日本農業経営学会誌「農業経営研究」に投稿中


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