蛋白質のルーメン分解性を考慮することで、窒素排せつ量を大幅に削減でき、かつ高い乳生産を維持できる


[要約]
泌乳最盛期牛に対する飼料中の粗蛋白質含量およびルーメン非分解性蛋白質含量を、それぞれ17.5%、7.8%から14.5%、5.2%に抑えることで、尿中窒素排せつ量が229g/dから155g/dへと減少する。泌乳成績も優れ、ふん尿の窒素排せつ量を16.9%削減できる。

[キーワード]乳用牛、蛋白質、窒素、ルーメン、排せつ量、ふん尿

[担当]長野畜試・酪農部、群馬畜試・酪農肉牛課、千葉畜研セ・乳牛研究室、栃木酪試・飼養技術部、新潟畜研セ・酪農肉牛科、愛知畜研・酪農研究室、東京畜試・応用技術部、山梨酪試・乳肉用牛科、畜草研・生理栄養部
[連絡先]電話 0263-52-1188
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(大家畜)
[分類]技術・普及

[背景・ねらい]
 家畜排せつ物の管理の適正化と利用の促進などを目的とした農業環境関連3法の本格実施を目前にして環境保全型農業の促進が求められており、家畜ふん尿の処理・利用技術についての研究は多い。しかし、飼料給与方法が家畜排せつ物の量や成分に及ぼす影響を検討した例は少ない。そこで環境負荷物質である窒素排せつ量の低減と生乳の高位生産の両立を目的として、粗蛋白質含量およびルーメン非分解性蛋白質含量の異なる飼料の給与が乳生産、ふん尿排せつ量および窒素出納にどの様な影響を及ぼすかについて検討する。

[成果の内容・特徴]
1. 公立8試験場の2産以上の乳牛54頭に分娩後5〜91日(13週間)まで試験飼料をTMRで給与して飼養試験を実施した。試験飼料は粗蛋白質含量およびルーメン非分解性蛋白質含量の多いHu区、少ないLu区およびその中間のMu区の3区とした(表1)。また分娩後14週前後の3日間について全ふん尿採取により出納試験を行った。
2. 体重、乾物摂取量(DMI)、乾物摂取量体重比(DMI/BW)、乳量および4%脂肪補正乳量(FCM)は、試験区間に差がない。乳中尿素態窒素(MUN)はHu区>Mu区>Lu区と有意に低下する(表2)。
3. ルーメン内容液において、総VFA濃度はLu区が他の区に比べ低い。アンモニア態窒素(NH3N)はHu区>Mu区>Lu区と有意に低下する。同様に血液中尿素態窒素(BUN)も有意に低下する。血液中γGTPはLu区が高い傾向を示す(表3)。
4. 出納試験の結果、尿量に有意な差はない。しかし、Lu区は尿中窒素濃度が有意に低下し、1日あたり尿中窒素排せつ量も有意に減少する(図1)。
5. これらの結果から、泌乳最盛期牛に対する飼料中の粗蛋白質含量およびルーメン非分解性蛋白質含量をそれぞれ17.5%、7.8%から14.5%、5.2%に抑えることにより、泌乳成績が優れ、尿中への窒素排せつ量が229g/dから155g/dと減少し、ふん尿の窒素排せつ量を16.9%削減できる。また、摂取した窒素が乳中に分配される割合は増加するので、効率的な乳生産が期待できる。

[成果の活用面・留意点]
1. 泌乳前期において、窒素排せつ量を低減する飼料給与技術として活用できる。
2. 初産および2産については、増体量を考慮するとCP14.5%では不足する可能性がある。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:環境に配慮した高泌乳牛のための飼養管理技術の確立
予算区分:県単
研究期間:2000〜2002年度
研究担当者:古賀照章、大久保吉啓、井上和典、坂田雅史、西木秀人、関誠、阿久津和弘、篠原晃、斎藤公一、石崎重信、佐藤精、倉石照美、梶川博、栗原光規
発表論文等:1)井上ら(2003)、日畜101回大会講演要旨、p94.
      2)関ら(2003)、日畜101回大会講演要旨、p94

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