大規模用水土地改良区の現状と経営状況の低下要因


[要約]
愛知県内の大規模用水土地改良区では、受益面積の減少による賦課金収入の減少、水質障害対策や水管理改良事業の用排水分離による水路延長の増加、水利施設の更新の遅れによる水路補修費の増加により、財政が圧迫されて経営力が低下している。

[キーワード]土地改良区、維持管理、水利施設

[担当]愛知農総試・環境基盤研究部・農業工学グループ
[連絡先]電話0561-62-0085
[区分]関東東海北陸農業・作業技術、関東東海・総合研究
[分類]行政・参考

[背景・ねらい]
 近年、都市化の進展による農地の減少、非農家との混住化、農産物価格の低迷、農業従事者の減少や高齢化等により、土地改良区の経営力が低下していると言われている。このため、愛知県内の受益面積2千ha以上を有する6つの大規模用水土地改良区(県内の受益面積の7割を占める)の実態を把握し、その低下要因を解明した。

[成果の内容・特徴]
1. 大規模用水土地改良区は、設立の経緯によって2つに大別され、水利施設の構造や築造後の経過年数等により経営状況が異なる。
2. 水資源機構の水路建設によって設立された土地改良区は、歴史も浅く、戦後の新たな水需要に応じて用水事業が興され、受益面積の減少が少ないので歳入の賦課金も安定している(図1:左側)。一方、歳出においては、水利施設の水路補修費が財政負担の増加要因となっており、平成16年度事業完了のMc改良区や平成13年度事業完了のMw改良区と比較して、平成11〜20年度事業を行っているMe改良区の水路補修費は、歳出中の割合が大きい(図1)。水路補修費は公共事業等による水利施設の更新によって抑えられており(図3)、今後も恒常的な施設投資が必要である。また、更新事業に対する低コスト技術の導入も重要課題となる。
3. 江戸期以降の新田開発に伴って設立された土地改良区では、スプロール化による農地転用が管理水路長を温存したまま受益面積を減少させ、賦課金収入を減少させるとともに、水質障害対策事業等の用排水分離による新旧水路延長の増大(Sw改良区は330km→500km 50%の増)が水路補修費や施設管理費の歳出を増大させ、経営力を低下させている(図1:右側)。
4. 農家に対する賦課金額は、すでに農家の水管理費用負担能力の限界(水稲作部門の経営は2万円強/10aの損失に対し賦課金額は4〜5千円/10a)に達しており、大幅な賦課金の値上げは農家の理解を得がたい。このため、農地転用の著しい土地改良区では、歳入の不足を転用決済金の一般会計への繰り入れで補っている(図1:右側)。これは、維持管理準備基金等として積み立てた転用決済金を切り崩して充当しているものであり、今後の歳入不足が懸念される(図2)。今後の改良区の存続のためには、Se改良区で行われている市町村の理解による排水管理金の一部負担や(図1)、農業用水路が持っている多面的機能の評価等の新たな歳入費の導入が必要である。

[成果の活用面・留意点]
1. 今後の土地改良区運営の助成を検討する基礎資料となる。
2. 図2中の「維持管理準備金から一般会計への繰入金」と「農地転用決済金からの積立金」は、過去10年間(平成5年度から平成14年度まで)の傾向から増減の推移を仮定し算出した。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:自然再生のための住民参加型生物保全水利施設管理システムの開発
予算区分:高度化事業
研究期間:2003〜2004年度
研究担当者:宮本 晃、加藤宏明、榊原正典

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