PCR法による牛胚の性判別技術の確立


[要約]
牛新鮮胚をPCRを用いた性判別後に凍結せずに移植を行うと受胎率が高い。PCRに供する細胞採取の胚のステージは後期桑実胚から拡張胚盤胞の範囲が良い。また、性判別のために細胞を切除した胚の培養時間を、20-24時間よりも3-4時間にすると受胎率が高い。

[キーワード]PCR、牛胚、性判別、受胎率、ウシ

[担当]茨城畜セ・先端技術研究室
[連絡先]電話0299-43-3333
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(大家畜)
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
 胚移植技術にPCR法による性判別技術を付加することにより、生産現場での経済性の向上や効率的な種畜の増殖が可能である。本研究では、本法による雌雄産み分け技術の向上を目指し、新鮮胚、ダイレクト凍結胚(凍結胚)、VSEDによるガラス化保存胚(ガラス化保存胚)を用いて、性判別後の移植による受胎率、判別胚のステージ別による受胎率の比較、PCRに供する細胞採取後の胚の培養時間が受胎率に及ぼす影響、DNA増幅装置(多槽式VSヒートブロック式)の違いによる判定率の検討を行う。

[成果の内容・特徴]
1. PCRによる性判別前の胚(後期桑実胚から拡張胚盤胞)の状態別に見ると、凍結保存胚に比べて新鮮胚において判別後の移植による受胎率が高い。しかし、新鮮胚をPCR用に細胞を採取した後に凍結すると、移植後の受胎率が低下する。判別後は全ての胚において3-4時間培養を行なった(表1)。
2. PCRに供する細胞採取時の胚のステージ別に見ると、新鮮胚を性判別後に凍結せずに移植すると、後期桑実胚(CM)から拡張期胚盤胞(EXB)までのすべてのステージで受胎する。しかし、判別後に凍結すると、受胎は可能であるが低率になる。判別後は全ての胚において3-4時間培養を行なった(表2)。
3. PCRに供する細胞を採取した後の胚を、3-4時間および20-24時間培養し、移植後の受胎率を比較すると、判別後の凍結の有無に係わらず、3-4時間培養の方が高い受胎率を示し、新鮮胚移植において46.7%の高い受胎率が得られる。また、判別後に凍結保存を行なうと、培養時間に係わらず受胎率が低くなる(表3)。
4. 新鮮胚を用いると、多槽式およびヒートブロック式によって共に80%以上のバンド検出率が得られ、増幅装置による性判別の効率に違いは見られない。しかし、凍結保存胚を用いると、新鮮胚と比べてバンド検出率が低率となる(表4)。

[成果の活用面・留意点]
1. 新鮮胚を用いて性判別を行ない、3-4時間培養後に新鮮のまま移植を行なえば、本技術の現時点での利用が十分可能な受胎率が得られると考える。
2. 一度凍結し融解後にPCRに供する細胞を採取した胚の受胎率は低く、普及性は期待できない。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:PCR法による性判別技術の確立
予算区分:県単
研究期間:1995~2003年度
研究担当者:渡辺晃行、根本聡実、山口大輔、菅原徹、足立憲隆
発表論文等:1)渡辺ら(2003)茨城畜セ研報 35:61-62.
      2)渡辺ら(2004)茨城畜セ研報 37: 1- 4.

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