乳牛の排卵同期化・定時人工授精と通常人工授精との妊娠率には差はない


[要約]
50頭規模の乳牛群について、排卵同期化・定時人工授精法(OVSYNCH/TAI)を利用した繁殖成績は通常人工授精のものと比較し、分娩後150日までの延べ受胎率が各々45.1%、48.7%、妊娠率が各々82.9%、86.7%で両区に有意な差は認められない。

[キーワード]乳用牛、排卵同期化・定時人工授精、受胎率、妊娠率

[担当]長野畜試・酪農部
[連絡先]電話0263-52-1188
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(大家畜)
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
 牛の新しい繁殖管理技術の排卵同期化・定時授精法(以下OVSと略)が繁殖効率を高める手段の一つとして注目されている。そこで乳牛の一群にOVSを適用した場合の繁殖成績について、通常の人工授精(以下、AIと略)と比較検討し、特性を明らかにする。

[成果の内容・特徴]
1. 長野県畜産試験場で2001年12月から2002年12月に分娩したホルスタイン種乳牛50頭の牛群を用い、OVS区に35頭、AI区に15頭を割り付けた。牛群の平均年齢、産次は各々3.8年、2.5産である。
2. OVS区は分娩後60日を経過してからOVSを行い、授精後35〜40日の妊娠鑑定で不受胎のものは再度OVSを実施し、鑑定以前に発情再帰したものは通常授精する。OVS区35頭のうち2頭は初回授精を通常授精で行う。AI区は分娩後60日から発情発見に基づいて、AMーPM授精法により実施する。
3. 牛群の分娩後150日までの延べ受胎率は、OVS区、AI区各々45.1%、48.7%、妊娠率は各々82.9%、86.7%、妊娠牛の平均空胎日数は各々96.5日、98.8日で両区に差はない(表12)。OVS区では授精時の発情発現率が23.5%、また定時授精前に発情発現した例があったため、定時授精実施率は84.3%である(表1)。
4. 生理的空胎期間を60日に設定した場合、初回授精時の分娩後日数は両区で70〜74日であったが、受胎率はOVS区で36.4%、AI区で29.4%と低いので改善が必要である(表3)。2回次授精時の分娩後日数は両区とも110日程度で、受胎率はOVS区で65.2%、AI区で60.0%と初回授精に比べ上昇する(表4)。

[成果の活用面・留意点]
1. 発情発見率の低下が問題となる飼養管理ではOVS適用によって繁殖効率の向上が期待できる。
2. 発情発見率の低下が問題とならない場合にはOVS適用のメリットは小さく、コスト面ではむしろ不利と考えられる。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:乳牛における計画授精技術の確立
予算区分:県単(基礎)
研究期間:2002〜2003年度
研究担当者:大久保吉啓、岸本剛、古賀照章、久保田和弘、田中章人
発表論文等:1)大久保ら (2003) 北信越畜産学会報 87:21.

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