乳牛スラリーのビニルハウスによる予備乾燥と堆肥化方法


[要約]
ビニルハウス内でロータリー式浅層攪拌装置によりスラリーを水分68%程度まで乾燥させ、その後、開放型堆肥舎で発酵させる2段階処理方式。スラリーが高水分で攪拌移送が困難な時期には戻し堆肥で水分調整でき、通年、安定した堆肥生産が可能である。

[キーワード]乳牛、家畜ふん尿、スラリー、乾燥、戻し堆肥、低コスト

[担当]栃木畜試・畜産技術部・畜産環境研究室
[連絡先]電話028-677-0015
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(畜産環境)
[分類]技術・普及

[背景・ねらい]
 近年、自然流下式牛舎から排出されるスラリーの貯留時やほ場散布時の悪臭揮散が問題になっており、適切な処理対策が求められている。また、草地基盤が少ない経営おいては、余剰のスラリーを堆肥化・流通させる必要がある。そこで、乳牛のスラリーをハウス乾燥した後に発酵処理する方式について、適切な稼動方法や悪臭の発生状況、処理コストに関する調査研究を実施し、効率的なスラリー堆肥化技術を提示する。

[成果の内容・特徴]
1. 本方式の特徴は、太陽光と機械攪拌によってスラリーを発酵開始水分まで乾燥させ、その後、堆肥舎で切り返し発酵させる2段階方式を採用している点であり、ヒーターによる加熱乾燥やオガコ等の水分調整資材を使わずに堆肥化を促進する。
2. 栃木県黒磯市に設置された施設の事例(図1)では、乾燥施設への投入時のスラリー堆積高さは20cm程度で、平均2.4〜3t/日の処理能力である。施設の建設費14,595千円、設備機器費2,730千円、維持管理費42千円/年で、年間1頭当たり21千円(経産牛50頭規模)である。
3. 乾燥施設に投入するスラリーの水分は、冬期〜春期において約87%、夏期〜秋期では約89%と約2%の差がある(図2)。水分88%以上のスラリーは攪拌装置の爪による移送が困難で乾燥が促進されないが、戻し堆肥を混合して水分を86%に調整すれば対応でき、この場合の1日あたりの戻し堆肥(水分40%)の利用量は0.2〜0.3トンとなる。また、スラリー表面からの水分蒸発量は乾燥の最も進行する春期で3.5kg/m2/日程度、遅れる時期で2.1kg/m2/日程度となる。以上のような運用方法で年間を通じて発酵開始水分(68%)程度以下まで乾燥させることができる。なお、夏期の製品堆肥は過乾燥になりやすく、戻し堆肥として利用して再発酵させることが望ましい。
4. 乾燥施設搬出後、発酵施設に運搬・堆積することで内部温度が60℃程度に上昇する(図3)。なお、発酵初期はアンモニアが比較的多く検出されるが(図4)、84日間で切り返し作業を5〜6回繰り返すことで易分解性有機物が分解され、最終的には温度上昇やアンモニアの発生は確認されない(検知管検出閾:0.5ppm)。

[成果の活用面・留意点]
1. 冬期間、栃木県北部よりも日射量が多い地域であれば導入可能である。
2. 本施設における乾燥能力は気温、湿度、日射量等に影響されるので設置する地域において運用方法を検討する必要がある。また、投入スラリーの水分や性状によって戻し堆肥による水分調整の要否を判断する必要があり、投入時の水分の把握が肝要である。なお、堆肥を施用する場合は、成分を把握し適正に利用する。


[具体的データ]


[その他]
建久課題名:効率的なスラリー処理技術の確立に関する試験
予算区分:県単、簡易低コスト家畜排せつ物処理施設開発普及促進事業(栃木県黒磯市)
研究期間:2002〜2004年度
研究担当者:岡本優

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