ポリエチレン袋と電子レンジを用いた低コスト無菌培養システム


[要約]
植物の無菌培養において、電子レンジで培地を滅菌し、市販のポリエチレン袋を用い、吊り下げて培養する無菌培養システムを開発した。この方法は、従来の培養法に比べて大幅にコストを低減できる。

[キーワード]植物無菌培養、ポリエチレン袋、電子レンジ、吊り下げ培養、低コスト

[担当]福井園試・野菜・花き研究グループ
[連絡先]電話0770-32-0009
[区分]関東東海北陸農業・花き
[分類]技術・普及

[背景・ねらい]
 従来の無菌培養による種苗生産は高コストであるため、原々種苗、ウイルスフリー苗など付加価値種苗およびランなど単価の高い品目での利用に限られている。そこで、無菌培養による低コスト種苗生産システムを確立し、育成した新品種や優良系統・無病苗を安価に供給する。

[成果の内容・特徴]
1. 電子レンジよる培地の加熱は、加熱時間が長くなるほど雑菌による汚染が少なくなり、培地1リットル当たり25分間加熱で雑菌による汚染がなくなる(表1)。
2. 電子レンジを用いて加熱滅菌した培地での植物体の生育は、慣行の高圧蒸気滅菌器で滅菌した培地での生育とほぼ同等である(表2)。
3. ポリエチレン袋を吊り下げた場合、培養植物の生育は、慣行の静置床置きとほぼ同等である(表3)。
4. 全体のシステムの概要は図1のとおりである(図1)。

[成果の活用面・留意点]
1. 電子レンジで所定時間加熱後に培地が固化しないうちに速やかに、クリ−ンベンチ等無菌条件下で、ポリエチレン袋に所定量を分注する。培地量25〜30MLを分注する場合は、市販の6号透明袋(長さ210mm、幅100mm、厚さ0.03mm)が適している。
2. 実用化のための多くの実施例から、市販のポリエチレン袋を滅菌しないで用いても、それに起因する雑菌汚染はない。
3. 培地1リットルを分注後、培地が冷えて固まらないうちに、2〜3袋を抱き合わせて折りたたみ、結束用ビニール被覆針金で口を縛り、培地を固化させる。
その後は培養植物を植えつけるまで、清潔な室内で保存しておく。
4. 雑菌汚染は実用上問題ないが、汚染をなくしたい場合は、培地作成後25℃程度で1週間程度植物体を植え付けないで放置し、雑菌により汚染した袋を除去後に植えつける。
5. 吊り下げ培養を行うことにより、培養棚が不要になるとともに、培養室の利用効率が高まり、培養コストが大幅に低減できる。吊り下げ法は、横に敷設した針金等に架ける方法や天井から吊るしたひもに架ける方法(牡蠣の養殖方式)がある。
6. 無菌培養の直接経費(培養容器と培地にかかる費用)を試算したところ、福井園試慣行(培養容器200ccマヨネーズ瓶、MS培地、蔗糖3%、ゲランガム)の経費が155円に比べ、新開発のポリエチレン袋培養法を用いた経費は5円と、約30分の1のコストである。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:「福井ユリ」の優良種苗大量生産システムの確立
予算区分:県単
研究期間:2002〜2003年度
研究担当者:数馬俊晴、岩本祐佳、下野和彦
発表論文等:特許出願(2004) 特願2004-109495

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