イネの遺伝子機能解析および分子育種に有用な形質転換ベクターセット


[要約]
ベクターセットは、基本バイナリーベクター、RNAiベクター、補助プラスミドより構成される。これらを利用すると、複数種の遺伝子カセットを1つのバイナリーベクター上に連結して、1回の形質転換でイネに導入できるので、遺伝子発現の多重改変が容易である。

[キーワード]組換えイネ、バイナリーベクター、RNAi、分子育種、貯蔵タンパク質

[担当]中央農研・北陸地域基盤研究部・米品質研究チーム
[連絡先]電話025-526-3245
[区分]関東東海北陸農業・生物工学、作物・生物工学
[分類]科学・参考

[背景・ねらい]
 ポストイネゲノム研究としての遺伝子機能解明研究や、有用遺伝子導入による分子育種研究では、2つ以上の遺伝子の発現を同時に改変したい状況がしばしば生ずる。これまでは、単独の遺伝子について改変した組換えイネどうしを交配するか、コ・トランスフォーメーションを行うのが一般的であった。しかし、作業が煩雑で選抜や世代促進に時間がかかるなど、迅速な解析の障害となる要素が多い。そこで、複数種の遺伝子カセットを1つのバイナリーベクター上に連結して、1回の形質転換で導入できる、新たなベクターセットを構築することを目的とする。

[成果の内容・特徴]
1. ベクターセットは、基本バイナリーベクター、RNAiベクター、補助プラスミドより構成される(図1)。RNAiベクターについては、標的遺伝子の極めて短い断片(20bp以上)を用いるだけで、発現抑制効果を発揮できることを確認している。また補助プラスミドは、後述のように複数の遺伝子カセットを連結する際に用いる。
2. ベクターに組み込まれている遺伝子断片は、塩基置換などによりいくつかの制限酵素認識配列を消去してある。また、マルチクローニングサイトは、pUC19と同様の配列に加えて、8塩基認識酵素であるAscIとPacIの認識配列を追加してある。これにより、従来のベクターよりも利用できる制限酵素が多くなり、遺伝子構築が容易となる。
3. 補助プラスミドを用いた遺伝子カセットの連結手順について、一例を図2に示す。まず、カセットAをpZH2B上で、カセットBをpUC198AM上で構築する。AscI切断末端とMluI切断末端は連結可能なので、カセットBをAscI-MluI処理で切り出し、カセットAを含むpZH2BのAscI認識配列部分に挿入することにより、2つのカセットを1つのベクター上に連結できる。このとき、AscI切断末端とMluI切断末端を連結した部分は両方の制限酵素認識配列が消滅し、AscI切断末端どうしを連結した部分はAscI認識配列が維持される。よって、残ったAscI認識配列部分に、さらに別の遺伝子カセットC以降を同様の操作で挿入できる。
4. 以上のように、本ベクターセットを利用すると、発現抑制遺伝子カセットや過剰発現遺伝子カセットを、任意の組み合わせで1つのバイナリーべクター上に迅速に連結できる。完成したベクターは、任意のイネ品種に1回の形質転換で導入できるので、遺伝子発現を多重改変した組換えイネが容易に得られる。一連の操作に特別な機材や技術は必要ないので、当該分野の研究室であれば実施可能であり、遺伝子機能解析や分子育種の研究全般に有用である。
5. 実施例を示すと、例えば図3の遺伝子1は発現抑制カセットを2つ連結したものであり、これをイネに導入すると、貯蔵タンパク質であるグルテリン含有量と26kDaグロブリン含有量が同時に低減したイネ種子が得られる(図4)。図3の遺伝子2は発現抑制カセットと過剰発現カセットを併用して3つ連結したものであり、これをイネに導入すると、グルテリンが低減し、かつGFPとGUSの両方を過剰発現するイネ種子が得られる。

[成果の活用面・留意点]
1. 本成果で用いたpZH2Bの基本骨格はバイナリープラスミドpPZP202(Plant Mol. Biol. 25, 989-994, 1994)であるが、方法論は他のタイプのバイナリープラスミドにも適用できる。
2. 解析目的遺伝子が持つ制限酵素認識部位によっては、本成果を適用しにくい場合もありうる。
3. pZH2Bは、マメ類(アズキ、ダイズ)の形質転換にも利用されている。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:貯蔵タンパク質の改変による米粒特性の解析
課題ID:03-12-02-01-08-02
予算区分:イネゲノム(有用遺伝子単離)
研究期間:1998〜2002年度
研究担当者:黒田昌治、増村威宏(京都府立大)、田中國介(京都府立大)
発表論文等:(1)黒田(2003) 特許出願番号PCT/JP03/15753
      (2)黒田(2005) 農業および園芸80:239-244.

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