播種と苗箱の後片づけのいらない水稲の「箱なし苗」移植栽培法


[要約]
苗箱を使わない水稲の「箱なし苗」移植栽培は,苗マットが軽く、農家による播種や苗箱の片づけが不要であり、慣行育苗法より省力的で軽作業である.「箱なし苗」栽培は慣行の土付苗より欠株率がやや高いが,収量と品質は同等であり,土付苗の替わりに利用できる。

[キーワード]イネ、種子付きマット、箱なし苗、省力化

[担当]中央農研・関東東海総合研究部・総合研究第2チーム
[連絡先]電話029-838-8822
[区分]関東東海北陸農業・関東東海・総合研究、共通基盤・総合研究
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
 水稲の移植栽培では、担い手の高齢化や経営規模の拡大に伴い、育苗・移植作業の省力化、軽作業化が求められている。土を苗箱に詰めて育苗する慣行の方法では、忙しい春に播種をしなくてはならず、苗が重く、移植後に苗箱の回収、洗浄、保管が必要であるなど、労働時間、労働強度ともに負担が大きい。そこで、苗箱を使わず、片づけ不要な「箱なし苗」移植栽培法を開発する。また、「箱なし苗」栽培の省力性と収量性を明らかにする。

[成果の内容・特徴]
1. 「箱なし苗」移植栽培では、苗箱がなくても苗マットができるように種子を接着した種子付マットを用いる。種子付きマットは、発芽促進のために15℃で5日間浸種したのち乾燥させた種子150gをもみがら成型マットにポリビニルアルコール(PVA)で接着し、さらにその上に肥料入り育苗培土による覆土400gをPVAで接着したものである(図1)。
2. 「箱なし苗」では、農協等で製造する予定の種子付きマットを用いるため、農家は播種する必要がなく、苗床にシートを敷き、種子付きマットを並べて灌水すれば育苗を始められる(表1)。出芽は、土付苗の平置き出芽法に用いられている被覆資材を用いた平置き出芽法で行う(図1)。種子付きマットは吸水すると根が張るまでは持ち運びが困難なため、育苗器は使用できない。苗は稚苗を目標に育苗するが、浸種乾燥種子を使用するため育苗日数はやや長く必要である。
3. 「箱なし苗」では、育苗開始までの準備に要する時間が慣行の土付苗の1/3以下と省力的である。さらに移植の際の苗マットの重量が約半分と軽い(表2)。なお移植時には苗マットを丸めて運搬する。
4. 「箱なし苗」は土付苗に比べて苗丈と苗の茎葉乾物重がやや劣り,欠株率が高い場合がある(表3)。
5. 「箱なし苗」の出穂期、稈長、倒伏程度は土付苗と同程度である(表3)。また、収量、品質も土付苗とほぼ同じである。

[成果の活用面・留意点]
1. 平置き出芽法で育苗している農家ならば新たな設備投資をほとんどせずに導入できる。
2. 苗丈が伸びにくいので,保温に注意し,十分に潅水する.
3. 種子付マットは、農協等でもみがら成型マット製造プラントの後ろに種子付きマット製造機(開発中)を連結して製造する予定である。
4. 種子付きマットのコストは、育苗培土を購入する場合と同程度になると試算されている。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:水稲の育苗作業の超省力化に向けた「種子付きもみがら成型マット」と箱なし育苗技術の開発
課題ID:03-01-03-*-05-04
予算区分:アグリビジネス
研究期間:2002?2004年度
研究担当者:白土宏之、北川寿、小倉昭男(生研センター)、岡田謙介、松崎守夫、中西一泰(全農)、鈴木政広((株)山本製作所)、鈴木光則((株)山本製作所)
発表論文等:中西ら(2004)、種子接着マット、特願2004-75884

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