ダイズ種子含水率調節は品種にかかわらず冠水障害軽減に有効である


[要約]
ダイズ種子を水に浸漬すると、発芽および発芽後の生育が大きな阻害を受ける。播種前の種子の新鮮重あたり含水率を15%程度まで高めることによって、冠水障害の発生は大幅に軽減され、この効果は品種に関係なく認められる。

[キーワード]ダイズ、発芽、冠水、種子含水率、湿害、種子浸漬

[担当]作物研・畑作物研究部・豆類栽培生理研究室
[連絡先]電話029-838-8392
[区分]作物・夏畑作物、関東東海北陸農業・関東東海・水田畑作物、関東東海・総合研究
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
 日本の多くの地域ではダイズの播種期が梅雨の多雨期にあたり、さらにその大部分が排水不良の水田転換畑で栽培されていることから、播種直後の降雨等により圃場が冠水状態になった場合には、水に浸かった種子は湿害を受けて出芽・苗立ちが著しく低下する。そこで、発芽時の湿害を回避する技術を開発し、転換畑におけるダイズの安定・多収化を図ることは重要な課題である。冠水した種子の出芽を向上させるのに種子含水率を調節する手法が有効であることは知られていたが、その効果について品種と関連付けて研究した事例はこれまでに無かった。そこで、種子含水率調節による冠水障害の軽減が品種に関係なく、広く適用可能な技術であることを検証する。

[成果の内容・特徴]
1. 種子を水に浸漬することにより出芽率は著しく低下するが、出芽に成功した個体の生育も大きく低下する。含水率が低い種子ほど浸漬の影響は顕著であるが、新鮮重あたりの含水率を14.5%まで高めた種子では、出芽率が向上するだけでなく、出芽後の生育も大幅に向上する(図1)。
2. 含水率10.5%では、冠水に対する感受性に明瞭な品種間差異が認められるが、含水率を14.5%まで高めることにより全ての品種の種子で冠水障害は軽減され、品種間差異は縮小されて明瞭ではなくなる(図1)。
3. 冠水障害の発生は、冠水条件下で種子が物理的に破壊されることによる(図2)。一方、含水率を高めた種子では、冠水による種子の破壊は認められない。含水率調節の効果は、種子が冠水により破壊されるのを防ぐことによるものである。
4. 過湿状態の圃場でも、種子含水率を高めた種子の出芽率は含水率の低い種子に比べて大幅に向上し、出芽個体に占める正常個体の割合も増加する(図3)。

[成果の活用面・留意点]
1. 種子含水率調節による冠水障害軽減効果は、品種に関係なく認められるので、発芽時の湿害を回避するための基本的な技術と言える。
2. 含水率を高めた種子は種子活力が低下しやすくなるので、含水率調節後は種子を長期間常温に置くのは避ける。
3. 種子含水率を20%まで高めても、障害軽減の効果は15%種子と大差はない。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:生育初期の低酸素ストレスの要因の解明
課題ID:08-02-01-02-32-04
予算区分:ブラニチ2系
研究期間:2002〜2004年度
研究担当者:中山則和、島田信二、中村卓司、山本亮、島村聡、高橋幹、有原丈二
発表論文等:中山ら(2004) 日作紀 73(3):323-329.

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