有機質、化学肥料の長期連用がニホンナシの収量・品質および窒素安定同位体自然存在比(δ15N値)に与える影響


[要約]
有機質肥料(なたね油かす)を15年間長期連用したニホンナシ「幸水」園では、果実の収量・品質は有機質肥料区と化学肥料区とで差が認められない。果実の窒素安定同位体自然存在比(δ15N値)は、施肥した肥料のδ15N値を反映して有機質肥料区が化学肥料区より高くなる。

[キーワード]ニホンナシ「幸水」、δ15N値、有機質肥料、なたね油かす、長期連用

[担当]長野南信試・病害虫土壌肥料部、野菜茶研・果菜研究部・環境制御研究室
[連絡先]電話0265-35-2240
[区分]関東東海北陸農業・関東東海・土壌肥料
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
 ニホンナシ「幸水」は赤ナシの基幹品種であり、近年、有機質肥料を施用した栽培が増加し、施肥来歴を裏付ける科学的な指標が必要とされている。当場には、1989年から15年間に渡り、元肥窒素に有機質肥料(なたね油かす)を連用しているナシ園があり、有機質肥料の連用が収量・品質に及ぼす影響を化学肥料区、無窒素区と比較する。また、野菜等で利用され始めている窒素安定同位体自然存在比(δ15N値)を用いた有機農産物判別法をナシに適用する。

[成果の内容・特徴]
1. 収量(1樹当)は、樹の成長に伴って年々増加し、98年がピークとなった。15年間の収量を総じてみると、有機質肥料区は化学肥料区と同等であり、無窒素区は若干低下する傾向である(図1)。糖度は年次変動があり、区間の差は明確ではなく、有機質肥料の施肥による糖度変化は認められない(図2)。
2. 施肥した肥料のδ15N値は、有機質肥料区が+2.2‰、化学肥料区が-1.3‰であり、有機質肥料区が高い。その差は、3.5‰である(表1)。
3. 果実(2003年産)中のδ15N値は、有機質肥料区で+4.1‰、化学肥料区で+0.5‰であり、有機質肥料区で高い。その差は3.6‰であり、両区の肥料のδ15N値の差(前記の2.)とほぼ一致する。
この結果は、長期間同一肥料を連用した場合、施肥窒素のδ15N値がナシ果実のδ15N値に反映することを示している(図3)。

[成果の活用面・留意点]
1. 窒素安定同位体自然存在比(δ15N値)は、計算式{(15N/14N 試料)/(15N/14N 標準試料)-1}×1000により計算(単位‰パーミル)される。
2. 有機農産物のδ15N値は、果菜類では非認証のものより高いことが報告されている(2002年野菜茶業研究成果情報)。
3. ニホンナシでδ15N値を施肥来歴を裏づける指標とするには、栽培圃場の施肥履歴と果実のδ15N値とを組み合わせた多くの試験データが必要である。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:基幹作物の土壌および施肥改善
予算区分:県単
研究期間:1989〜2003年度
研究担当者:齋藤龍司、塩原孝、宮下純、中野明正、上原洋一

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