「コシヒカリ」の根系発達の特徴と収量との関連性


[要約]
20年間同一耕種条件で栽培したコシヒカリの地上部および根の生育量の推移と収量の関係について解析し、初期の根重が大きい年次には登熟期間の根重が凋落し、収量が低下する傾向を認めた。

[キーワード]コシヒカリ、初期生育、根重、収量、T-R比

[担当]福井農試・企画経営部・作物研究グループ
[連絡先]電話0776-54-5100
[区分]関東東海北陸農業・北陸・水田畑作物
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
 近年の登熟期間の気温および飽差(大気の乾きやすさの指標)の上昇は玄米品質を低下させているが、4〜5月の気温の上昇も、圃場の乾田化および浅耕化と相まって水稲の初期生育を促進させている。初期生育の促進による茎数過剰は、登熟期間の根の活力、玄米収量や品質へも影響する可能性がある。そこで20年間にわたりほぼ同一耕種条件で栽培したコシヒカリの根量を中心に解析を行い、生育時期別の根、地上部の生育量および収量との関係について明らかにした。

[成果の内容・特徴]
1. コシヒカリの根の乾物重(以下根重と記す)は、生育初期にはゆっくり増加するが、6月上旬から幼穂形成期にかけて急速に大きくなり、出穂期頃に最大となり以後登熟期間に少しずつ減少する傾向を示す。また、初期の根重の多少で分類すると、初期の根重が大きい年次は生育ステージが早まり、最大となる出穂期の根重が小さく、登熟期間の根重減少程度が大きい(図1)。
2. 6月上旬の根重は地上部乾物重(以下地上部重と記す)の増加に伴って大きくなり、地上部重が80g/m2を上回ると根重は頭打ちとなる(図略)。一方で6月上旬に根重が大きいと、その後幼穂形成期にかけての根重増加が緩慢となる(図2)。
3. 6月上旬から幼穂形成期までの根重増加率と収量には正の相関が認められる(図3)。このことは、有効茎確保期から幼穂形成期までは根重を増やし、収量向上のために重要な時期であることを示している。
4. 6月上旬の根重と登熟期間のT-R比の増加率には正の相関が、登熟期間のT-R比の増加率と収量は負の相関が認められる(図5,6)。また、初期生育が悪く、その後根が大幅に伸長する出穂期にかけての日射量がかなり低く、根重増加量が停滞した1988年と1993年を除いて考えると、6月上旬の根重と収量には高い負の相関が認められる。このことは、旺盛な初期生育により根量が早期に増加すると、出穂期以降のT-R比が高まり、収量が不安定となることを示す。

[成果の活用面・留意点]
1. 本試験は細粒グライ土において5月上旬に1株4本植え、栽植密度20.8株/m2で実施している。窒素施用量は基肥として3.5g/m2,田植え後2週間に中間追肥として1.5g/m2、穂肥は出穂前18日に2g/m2、出穂前10日に1g/m2、合計8g./m2である。
2. 根重は、横27cm、縦18cm、深さ20cmの方形枠にて生育中庸株を6株掘上げ、よく水洗して秤量し、平米換算した。
3. 根が大幅に伸長する6月上旬から出穂期にかけての日射量が低い場合は、根の伸長が停滞するため、このような傾向を示さないので留意する。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:稲作気象対策試験、水稲根群活力維持のための生育前歴条件の解明と栽培管理方法の開発
予算区分:県単、委託(温暖化)
研究期間:1984〜2003年度
研究担当者:井上健一、山口泰弘

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