ヘアリーベッチによる中粗粒質水田の地力窒素の増強


[要約]
マメ科のヘアリ−ベッチは、北陸の中粗粒質水田において、無肥料で栽培しても目標窒素投入量を確保できる生育となり、すき込みにより窒素無機化量を増加できるため、水田の地力窒素増強に活用できる。

[キーワード]緑肥作物、ヘアリーベッチ、イネ、有機物施用、地力増強

[担当]富山農技セ・農試・土壌肥料課
[連絡先]電話076-429-5248
[区分]関東東海北陸農業・北陸・生産環境
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
 水稲−大豆の輪作体系の長期化による中粗粒質水田土壌の窒素無機化量の低下は、気象変動の大きい中で、安定な収量確保のために、負の要因のひとつとなっている。その対策として、有機物等を施用し地力回復を図る必要があるが、主穀作農家が入手可能な家畜ふん堆肥等には限界がある。このため、緑肥冬作物を組み込んだ輪作体系による水田の地力窒素増強技術の確立を目的とする。

[成果の内容・特徴]
1. ヘアリ−ベッチは、水稲収穫後の10月に4kg/10a播種することで、翌年春の10アール当たりのすき込み量は、全窒素9〜17kg、全炭素87〜185kgと目標窒素投入量の10〜15kg(乾物率50%、T-N2%の堆肥1〜1.5t/10aに相当)に達する(エンバク、レンゲでは到達しない)。また、ヘアリーベッチの窒素投入量は、窒素濃度が約4〜5%であるため、乾物重を測定すれば誤差5%程度で推定できる(表1)。
2. 緑肥をすき込んだほ場の水稲跡地土壌において、エンバクでは全炭素は多くなるが、その割には風乾土インキュベーション値(30℃4週)は増加しない。ヘアリーベッチでは、エンバクやレンゲに比べて、窒素投入量の増加に従って無機化量が多くなり、地力窒素の増強効果が高い(図1)。
3. ヘアリーベッチをすき込むと、移植後から最高分げつ期にかけての窒素無機化量は、エンバクやレンゲに比べて多くなり、その後成熟期にかけて漸増する。また、連作をすることにより発現量が多くなる(図2)。
4. 無機化する窒素は、ヘアリーベッチ、エンバクではみかけの利用率が同程度であり、水稲の生育初期から同じように吸収されるが、ヘアリーベッチはすき込み窒素量が多いため、窒素吸収量が多くなる。また、ヘアリーベッチは連作すると無窒素栽培においても、慣行栽培以上の窒素吸収量となる(表2)。

[成果の活用面・留意点]
1. この試験結果は北陸地域の中粗粒質の水田に主として適応する。
2. ヘアリーベッチは湿害に弱いので、播種時にほ場の排水対策を十分とる必要がある。
3. ヘアリーベッチのすき込みから植代まで、2週間以上の間隔をあける。
4. ヘアリーベッチを連作することにより、地力窒素として蓄積されるため、適宜窒素施用量を減じ、またリン酸・カリ肥料は基準通り施用する。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:緑肥作物を組み込んだ新輪作体系による地力増強技術確立試験
予算区分:国補(土壌保全)
研究期間:2002〜2004年度
研究担当者:岡山清司

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