スペクトル類型化により近赤外分光法での土壌成分推定精度が向上


[要約]
近赤外分光法による土壌成分の推定において、多種類の土壌を一度に測定すると推定精度が低くなるが、個別に検量式を作成すれば精度高く測定できる。未知試料を当てはめるべき検量式の判別はSIMCAで行うことができ、精度低下の問題を解決できる。

[キーワード]近赤外分光法、土壌、土壌群、成分、スペクトル、SIMCA、判別

[担当]愛知農総試・企画普及部・経営情報グループ、環境基盤研究部・環境安全グループ
[代表連絡先]電話0561-62-0085
[区分]関東東海北陸農業・作業技術、関東東海・土壌肥料
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
 近赤外分光法は、簡易迅速に土壌の成分を推定できる方法として期待され、過去何年か各地で実用化を目指した取り組みが進められてきた。しかし、単一の土壌群では高い精度が得られるものの、多くの土壌群を単一の検量式で推定すると回帰散布図が曲線的に分布する特徴的な問題が発生し、実用化を図る上で阻害要因となってきた。  この原因を特定し、スペクトル面からの土壌の類型化と複数準備した検量式の中から適用すべき検量式を判別する手法を開発する。

[成果の内容・特徴]
1. 多種類の土壌群を用いて(ここでは褐色低地土等6種類の土壌)、近赤外分光法で土壌成分の推定をした時、全種類を1つの検量式で測ろうとすると、推定結果の散布図は曲線的に分布し、実用的に運用する上で問題があったが、この原因は、回帰散布図上で土壌群ごとに異なる傾きを持つためである(図1)。
2. 土壌群ごとに検量式を作成した時は、推定結果は傾き1の直線上に分布し、さらに、PCA(主成分分析)のスコア−スコアプロットのクラスターが類似した土壌は、グループにして検量式を作成しても、やはり傾き1の直線上に分布する(図2)。
3. 事前に複数準備したモデルの中の、どれに未知試料を当てはめたら良いかの選択は、SIMCA(Soft Independent Modelling of Class Analogy)を用いることで可能となる。用いた土壌群について作ったSIMCAモデルのどれに検定用試料が属するか判別分析を行ったところ、表1に示す結果となり、一つのモデルに特定できた訳ではないものの、未知試料の検量式に対する適不適は判別できる。例えば黒ボク土は、他のどのモデルとも明確に異なっており、黒ボク土用のモデルを準備しなければならない。
4. 従来色などによって類別していた土壌が、この手法を用いることによってスペクトルに基づく類別ができ、近赤外分光法においては、最も近いと判定された検量式を用いることによって推定精度を確保することができる(図3図4)。
5. モデルとの距離が大きい試料(例えば図3の○や◇)は、適用すべき検量式がないと見なして従来法での分析に回し、誤った結果を出さないようにすることができる。

[成果の活用面・留意点]
1. この手法を用いて、スペクトルに基づく土壌の類型化を的確に可能にするシステムを確立すれば、複数の性状の異なる土壌群が分布する地域でも、普及課、農協支所レベルで簡易・迅速な土壌分析が可能となる。
2. 現段階では、未知試料を適用すべき検量式を自動で選ぶことはできず、実用段階に持って行くためには、算出されたモデルとの距離から、どのモデルに最も近いか判別できるようにする必要がある。
3. モデルを作成した土壌の種類によっては、どの土壌も殆ど当てはまる例がある。これは、そのモデルの元となったスペクトル群の変動が非常に大きかったことを反映しており、判別モデル作成にあたって、絞り込んだモデルを作る必要がある。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:土壌環境と物質循環
予算区分:県単
研究期間:2003〜2008年度
研究担当者:大竹良知、北村秀教

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