採胚不良牛への人閉経期性腺刺激ホルモン併用投与法による成績の向上


[要約]
豚下垂体由来性腺刺激ホルモン(FSH)を用いた過剰排卵処置(SOV)で、採胚成績不良な黒毛和種供胚専用牛群に対し、人閉経期性腺刺激ホルモン(HMG)を併用(初日、HMG150IU×2回、計300IU投与後、2及び3日目にFSHを3AU×2回、2AU×2回、計10AU投与)する事で、採胚総数、正常胚数・率の向上が望める。

[キーワード]黒毛和種、採胚不良牛、過剰排卵処置、HMG、FSH、胚生産性向上

[担当]三重科技セ・畜産研究部・家畜改良繁殖担当
[代表連絡先]電話0598-42-2194
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(大家畜)
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
 採胚成績は個体差が大きく、また、供用年数増加とともに成績不良に陥るものも認められ、淘汰更新が進まない場合、牛群全体の過半数を成績不良牛で占める状況にもなりうる。
 供試した平均7.2歳の黒毛和種供胚専用牛8頭は、過去4年間に1頭あたり9回の通常処理での採胚を実施し、1頭平均の成績が総採胚数4.0個、正常胚数2.5個であった。
 そこで、一般にSOV目的で用いられ、比較的安価な動物用FSH製剤(A社、分子量約33,000、LH含量0.025IU/mg以下)に対する反応が悪い牛群へ、排卵誘発等の人体用治療薬として薬価の高いHMG製剤(N社、分子量約30,000、FSH/LH比 1:0.05)を一部併用する事で、ホルモン処置のコスト増加を抑制しつつ、成績不良牛の胚生産性を数と質の両面から向上させる。

[成果の内容・特徴]
1. 通常、FSHの3日間漸減投与法(1日2回、合計24AU)に対して、SOV初日にHMG150IUを1日2回投与し、残り2日間にFSHを漸減投与(1日2回、合計10AU)する事で、卵巣の反応が向上し、大中卵胞を含む卵胞数が増加する(図1表1)。
2. 反応した卵胞の多くは排卵し、採胚時の黄体数は有意に増加する(表1)。
3. 採胚成績は、回収総数、正常胚数及び全体に占める割合、A'ランク以上胚数が有意に増加し、FSH製剤単品での処理と比較して、HMG併用により成績が向上する(表1図2)。
4. 採取正常胚を新鮮あるいはエチレングリコール(1.5M)を用いたダイレクトトランスファー法での凍結後に移植する事で、良好な受胎成績が得られる(HMG併用投与法での採取胚7個を7頭の受胚牛へ移植し、新鮮胚4個中2個、ダイレクト凍結胚3個中2個が受胎、受胎率57.1%)。

[成果の活用面・留意点]
1. HMGの純度(含まれるLHの割合)も反応に関与すると考えられ、FSH/LH比の違うHMG製剤の選択や、その違いによるFSHとの組み合わせパターン、例えばLH含有量の高い製剤はSOV後半で使用する方が良いか等の検討や、各個体毎に、FSHも含めた投与量、組み合わせに留意すべきと考える。
2. HMG単品でのSOVについては、1頭あたり600〜900IU(今回の図1に示すSOV費用をあてはめると\12,600〜18,900)を漸減投与した過去の研究報告例がある。
3. 最終的には、SOVにより一個体から一生涯にどれだけ多くの移植可能胚を生産できるかを念頭に置き、同一個体に対してHMG製剤をより長く利用する為に、まずFSHを併用し、より少ないHMGの薬剤量から試みるべきと考える。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:Human Menopausal Gonadotrophin(HMG)併用による採胚成績向上効果の検討
予算区分:県単
研究期間:2002〜2004年度
研究担当者:水谷将也、島田浩明、余谷行義

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