畜舎排水処理施設の日常管理と水質


[要約]
養豚農家から放流される排水は概ね水質規制値をクリアーしているが、軽微な管理不良により水質悪化が散見された。排水中の窒素は生物的脱窒法により除去可能であるが、簡易な脱窒法についてはさらに検討を加える必要がある。

[キーワード]畜舎排水、水質規制、脱窒処理

[担当]静岡中小試・経営環境スタッフ
[代表連絡先]電話0537-35-2291
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(畜産環境)
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
 環境三法の施行や、水質汚濁防止法の改正による放流水質の窒素規制の強化等、環境保全に関心が高まっている中、低コストで確実に法規制値をクリアできる排水処理施設の維持管理が求められている。
 静岡県西部地域の畜産農家における畜舎排水処理状況の実態調査から、排水処理に係る問題点の抽出と、今後、規制の強化が予想される窒素除去法について簡易な処理方法を検討した。

[成果の内容・特徴]
1. 2003〜2005年度に各年2回実施した実態調査による畜産施設の排水処理状況では、標準活性汚泥法他数種類の処理法が採用されており、処理方式により排水の浄化度合いに若干の差が認められた。また、放流水質に規制があるpH、SS、BOD、大腸菌群では、余剰汚泥の引き抜き不足に起因すると思われるSSの規制値違反、最終放流時の消毒不足による大腸菌群数違反が散見されたが、いずれも管理不適切によるものと考えられた(表-1)。
2. 水質規制が強化された、放流水中の無機態窒素の動向では、施設により放流水中の無機態窒素の濃度にばらつきは見られるものの、現時点での規制上は問題ないが、将来的には確実に低減できる処理施設に改善する必要がある(表-1)。
3. 窒素規制値100ppmに対応するため2003年度末に設置した当試験場の脱窒施設(既存浄化槽の処理水のメタノールを用いた生物的脱窒処理法)による脱窒状況では、既存浄化槽の処理状況により、硝酸態窒素量の変動が大きくて、設計基準値を大幅に上回る窒素負荷でも相当の脱窒能力を得ることができた(図-1)。
4. 簡易な生物的脱窒処理法を検討するため図-2に示す試験装置を用い、豚舎排水中の窒素の動向について検討を行った結果、投入時の排水中のBOD799ppm、T-N1,984ppm、NH4611ppmは、第1脱窒槽でBODは速やかに消費され、T-Nの大部分はNO3に変換されて各槽を移動し、膜分離後の水質はBOD6ppm、T-N1,860ppm、NH456ppm、NO31,720ppmとなり、BODの除去率99.2%に対しT-Nの除去率は6.3%と極めて低率であった(図-3)。第1脱窒槽でT-NがNO3に変換された要因は、槽内の攪拌ポンプの能力が過大すぎ嫌気状態がとれなかったためと考えられた。今後、脱窒ための水素供与体として一般的に利用されるメタノールの他、各種有機物の利用について検討を加える必要がある。

[成果の活用面・留意点]
1. 畜舎排水処理施設の管理に関しては、農家が現場で対応できるような、SV30・推定尺・pH試験紙等を用いた日常管理を中心とした管理手法の指導を行う必要がある。
2. 放流水中窒素の暫定基準値では、現状の畜舎排水処理施設でも対応可能と考えられるが、排水処理施設の改善にとどまらず、排水処理施設への負荷軽減のための畜舎構造・家畜管理法等を含めた総合的な農家指導を行う必要がある。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:畜舎排水処理施設の効率的利用方法の研究
予算区分:県単
研究期間:2003〜2005年度
研究担当者:関 哲夫、杉山 典、大谷 利之、和久田 高志

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