改変エチレン受容体遺伝子(Cm-ETR1/H69A )導入による雄性不稔キクの作出


[要約]
69番目のヒスチジンをアラニンに置換したメロン由来改変エチレン受容体遺伝子を遺伝子組換え技術によってキクに導入することで、花粉が全く形成されない雄性不稔キクの作出が可能になる。

[キーワード]キク、遺伝子組換え、メロン由来改変エチレン受容体遺伝子、雄性不稔

[担当]福井農試・園芸・バイテク部・バイテク研究グループ
[連絡先]電話0776-54-5100
[区分]関東東海北陸農業・生物工学
[分類]科学・参考

[背景・ねらい]
 遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(平成15年法律第97号)の制定に伴い、組換え生物が他の生物に及ぼす影響を懸念する声が高まっている。日本には、栽培キクと交雑可能な近縁野生種が多数存在し、これまでにも雑種が確認されていて、遺伝子組換えキクにおいても、花粉の飛散によって、導入遺伝子が意図せず自然界に拡散する恐れがある。そこで、すでにタバコ(Plant Science 169: 935-942 (2005))とレタスで雄性不稔個体が作出されている雄性不稔遺伝子を、キクに組み込むことで、花粉飛散による遺伝子拡散を回避する。

[成果の内容・特徴]
1. 用いた遺伝子は、メロンから単離されたエチレン受容体遺伝子で、エチレン結合能力を低下させるために、69番目のヒスチジンをアラニンに置換した改変遺伝子(Cm-ETR1/H69A )である。
2. 遺伝子組換え技術によって、メロン由来改変エチレン受容体遺伝子をバイナリーベクター上に構築し(図1)、Rhizobium radiobactor  (旧Agrobacterium tumefaciens ) を介して導入したキク品種「山手白」で、非組換え体に比べて花粉が少ないあるいは、花粉が全く形成されない個体が得られる(図2表12)。
3. RT-PCRの結果、非組換え体に比べて花粉が少ないあるいは、花粉が全く形成されない組換え体では、mRNAが確認される(図1)が、花粉粒数の減少が見られなかった組換え体では、mRNAが確認できないことから、遺伝子組換え体における花粉粒数の減少あるいは、花粉が全く形成されない形質は、メロン由来改変エチレン受容体遺伝子の発現に起因し、培養変異ではないと考えられる。
4. Cm-ETR1/H69A 遺伝子は、葯内のタペート細胞の退化を遅延させることで、花粉粒の成熟を阻害し、不稔化させる働きを持つ(図2)。
5. Cm-ETR1/H69A 遺伝子を導入したキクでは、開花期がやや遅れる傾向があるが、草型や花器官においては顕著な変異は認められない(表2)。

[成果の活用面・留意点]
1. Rhizobium radiobactor に感受性であり、カルスからの再分化能を持つキク品種において、この技術を活用することで、雄性不稔キクが得られる可能性がある。
2. 雄性不稔遺伝子と同一ベクター上に有用遺伝子をセットで構築し、Rhizobium radiobactor  を介してキクに導入することで、花粉による遺伝子拡散のない実用性の高い組換えキクが作出できる。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:花粉による遺伝子拡散のない耐虫性・雄性不稔キクの開発
予算区分:高度化事業
研究期間:2004〜2005年度
研究担当者:篠山治恵、江面浩(筑波大学)、間竜太郎(花き研)、野村幸雄

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