水稲の不耕起V溝直播栽培は移植栽培より脱窒活性が長く持続する


[要約]
水田作土表層部における脱窒速度は炭素源に制限されており、水稲の不耕起V溝直播栽培では、水田作土中の溶存有機態炭素含量が移植栽培より高濃度に維持されるため、移植栽培よりも脱窒活性が長く持続する。

[キーワード]水稲、不耕起V溝直播栽培、溶存有機態炭素、硝酸態窒素、脱窒活性

[担当]愛知農総試・環境基盤研究部・環境安全グループ
[連絡先]電話0561-62-0085
[区分]関東東海北陸農業・関東東海・土壌肥料
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
 水田の作土は水稲作付け期間中は還元状態になるため、環境負荷物質である硝酸態窒素を脱窒により浄化することが知られている。一方、愛知県をはじめ全国的に普及しつつある水稲の不耕起V溝直播栽培では、土壌を攪乱しないため、移植栽培に比べ土壌の還元化の進行が遅く脱窒活性も低いことが危惧される。そこで、不耕起栽培時の脱窒による浄化能力を従来の移植栽培との比較により明らかにする。

[成果の内容・特徴]
1. 水田の耕盤層まで打ち込んだ塩ビ管にポーラスチューブを水平に差し込み、真空瓶で吸引することにより、土壌構造を壊さずに同じ位置の土壌溶液を経時的に採取した(図1)。
2. 移植栽培では、硝酸溶液を添加する操作を繰り返していくと、硝酸態窒素濃度の低下が遅くなっていくが、V溝直播不耕起栽培では逆に速くなる(図2)。なお、深さ5cmにおいては、いずれの栽培法においても硝酸態窒素はほとんど検出されず(データ省略)、表層部でほとんど消失していた。
3. 水田作土深さ1cmにおける土壌溶液中の溶存有機態炭素含量は、硝酸溶液添加操作を繰り返すほど移植栽培では漸減していくが、V溝直播不耕起栽培では漸増していく(図4)。不耕起栽培で表層部に溶存性有機態炭素が多いのは、雑草などがすき込まれず表層部に残存していること、移植栽培に比べ酸化的であるため有機物の分解が継続して進行するためと考えられる。
4. 移植栽培において、硝酸態窒素濃度の低下が遅くなった時点で、硝酸と同時に炭素源を添加すると、硝酸態窒素濃度の低下は再び速やかになる(図2)。
5. 土壌溶液及び田面水中の硝酸態窒素の自然対数値と安定同位体自然存在比には直線関係が認められることから、硝酸の消失は主に脱窒である(図3)。
6. 水稲の不耕起V溝直播栽培は、溶存有機態炭素の供給が長続きするため、作土表層部の脱窒活性が移植栽培よりも長く維持され、硝酸態窒素に対する浄化能力は移植栽培よりも高い可能性がある。

[成果の活用面・留意点]
1. 硝酸態窒素に負荷された水を水田に導水して浄化する場合は、水稲の不耕起V溝直播栽培が有利である。
2. 適用土壌は細粒黄色土である。
3. 試験ほ場は水稲作跡地で、不耕起V溝直播栽培は冬期に代かきをした場合である。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:地形連鎖系における水田の浄化機能評価法の確立
予算区分:県単
研究期間:2005〜2007年度
研究担当者:今井克彦、野々山利博、恒川 歩、柴山浩子

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