冬期掛け流し灌漑を行う場合の水田の硝酸性窒素除去能力の推定式


[要約]
水田において通年掛け流し灌漑によって硝酸性窒素除去を行う場合、脱窒活性の低い冬期においては降下浸透による除去量が表面流去のそれを上回る。提案した式を用いれば、降下浸透水の水収支を考慮したうえで、水田の硝酸性窒素除去能力を推定できる。

[キーワード]硝酸性窒素、水田、窒素除去、冬期掛け流し灌漑、降下浸透水、必要水田面積

[担当]静岡農試・海岸砂地分場
[連絡先]電話0537-86-2218
[区分]関東東海北陸農業・関東東海・土壌肥料、共通基盤・土壌肥料、野菜茶業・茶業
[分類]科学・参考

[背景・ねらい]
 台地に茶園を有する地域では、過去の多施肥によって茶園下の深層に集積した高濃度の硝酸性窒素が河川へ流出することが問題となっている。こうした河川水の窒素除去には水田・休耕田の脱窒機能を活用することが有効である。河川水の硝酸性窒素濃度は年間を通して一定であるのに対し、水田における窒素除去速度は低温期に低下するために、窒素除去に活用する水田面積は冬期の除去能力をもとに算出する必要がある。そこで冬期における休耕田の窒素除去特性に対応した除去能の推定式を提案する。

[成果の内容・特徴]
1. 通年掛け流し灌漑した休耕田の脱窒作用によって河川の硝酸性窒素の除去を図る場合、田面水での除去能力は低温期に低下する(図1)。このため、冬期においては滞留時間が長い降下浸透水中での窒素除去が重要となる(図1)。降下浸透水中での窒素除去能力は、みかけ上は温度に依存せず、水温が2℃〜40℃の範囲で硝酸性窒素濃度はほぼ環境基準値以下となる(図2)。
2. そこで降下浸透水に関しては水温に関わらず充分な硝酸性窒素の除去が行われるとし、流入水のうち降下浸透水を差し引いた表面流去水中の硝酸性窒素が温度に依存して除去されるモデルを作成した。浸透を考慮した水収支に基づいて、降下浸透水が考慮されない既往の「水田除去機能付き窒素流出モデル(式1)」を拡張すると式2aが得られる。ここでA :水田面積、Q :流入水量、x0 およびx :それぞれ流入および流出水中の硝酸性窒素濃度、P :降下浸透水量、T :水温である。除去係数a は水温T と関連付けた式3から求める。
3. これらの式を用いると水温が2〜37℃の範囲で表面流去水の硝酸性窒素濃度を満足のいく精度で予測できる(図3)。さらに式2aを水田面積Aについて解いた式2bを用いれば水温、硝酸性窒素濃度および水量が既知の河川水において、硝酸性窒素濃度を目標値まで低下させるために必要な水田面積を求めることができる。

[成果の活用面・留意点]
1. 水田・休耕田を活用した水質浄化対策立案の基礎資料として活用できる。
2. 河川の硝酸性窒素流出量には大雨時の流出量は含まれない。
3. 表層グライ灰色低地土に50m2の掛け流し水田を設け、1998年9月以降有機物を鋤きこまず裸地管理することで得たデータである。
4. モデルの作出に用いた各パラメータの範囲はx0  (18〜33mgN/L)、A  (17〜50m2)、Q  (0.2〜10m3/d)、T  (2.4〜37℃)である。


[具体的データ]



[その他]
研究課題名:地形・地目連鎖(海岸砂地ー水田低地ー茶園台地)系を活用した環境負荷物質除去技術の開発に関する研究
予算区分:指定試験
研究期間:1999〜2005年度
研究担当者:高橋智紀、新良力也(中央農研)、前田守弘(中央農研)、杉浦秀治、渥美和彦(静岡県農林大学校)、宮地直道(日本大学)
発表論文等:新良ら(2005)土肥誌76:901-904

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