臭化物イオンの浸透特性と窒素収支に基づいた浸透水窒素濃度推定モデル


[要約]
モノリスライシメータを用いて得られる土壌の臭化物イオン浸透特性と作付毎に求める余剰窒素量から、浸透水窒素濃度の経時変動が推定できる。

[キーワード]硝酸性窒素、溶脱、伝達関数モデル、モノリスライシメータ

[担当]中央農研・土壌肥料部・水質保全研究室
[連絡先]話029-838-8829
[区分]関東東海北陸農業・関東東海・土壌肥料、共通基盤・土壌肥料
[分類]科学・参考

[背景・ねらい]
 土壌浸透水中の硝酸性窒素濃度には施肥来歴の影響が複雑に重なり合うため、各作付毎の肥培管理に対応する影響を読み取ることは困難である。このため、肥培管理や土壌タイプが窒素(N)溶脱に及ぼす影響を明らかにするためには、N溶脱モデルを用いた解析が効果的である。土壌中での物質移動特性を集積情報として扱う伝達関数モデルは、必要とされるパラメータや変数が少ない利点があるが、方法論として完成されておらず、フィールド試験への適用例はまだ少ない。
 本研究では、土壌中では低濃度で化学形態が変化しない臭化物イオン(Br-)を硝酸性窒素のトレーサとして選択し、その土壌浸透特性とN収支に基づいた、フィールド試験に適用できる伝達関数モデルを開発する。

[成果の内容・特徴]
1. 自然降雨条件下に設置した不攪乱土壌(モノリスライシメータ:直径30 cm長さ1 m)表面にBr-を施用(20 g Br- m-2)し、その浸透Br-濃度を総流出量で除して正規化濃度を求める。次いで、正規化濃度を積算浸透水量(I)の関数としてプロットしたものを、次のガンマ確率密度分布関数(f)でフィッティングすることで、土壌毎の浸透特性パラメータ(αとβ)を求めることができる(図1)。
2. 作付毎に算出した余剰N量が式(1)で表される浸透特性で溶脱すると仮定し、余剰N量とfの積として浸透水のTN濃度分布を求める。なお、化成肥料を用いる場合はN施肥量と吸収量の差を余剰N量とし、有機質資材の場合はN供給量からN吸収量を差し引いた値を余剰N量とする。続いて、これら各作付の浸透水TN濃度分布をすべて重ね合わせることにより、TN濃度の経時変動が推定できる。
3. 化成肥料を施用した黒ボク土に本モデルを適用したところ、浸透水TN濃度をほぼ満足に推定することができた(図2)。堆肥区においても、N供給量を4年間のN収支(表1)から算出したところ(40×0.73=29 kg ha-1)、実測値と推定値の推移はほぼ一致した。また、シミュレーションの結果から、初年度10月までの溶脱Nは供試前の施肥来歴によるものであり、3年目のTN濃度上昇は前年度の夏作と冬作の影響が重なったためであることがわかった。同様に、赤色土および砂丘未熟土のモニタリング結果に本モデルを適用したところ、浸透水TN濃度を十分に推定できた。

[成果の活用面・留意点]
1. 本手法によって、浸透水の硝酸性窒素と施肥の関係を解析することが可能であり、環境保全型肥培管理を推進するための基礎資料となる。
2. 圃場条件での窒素溶脱を予測するためには、同一土壌タイプにおける浸透特性のバラツキならびに移流分散方程式を用いた浸透特性の推定法などの検討を要する。
3. 有機質資材からの長期的なN供給量を簡易に推定できるモデルを開発中である。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:土壌タイプ別の窒素溶脱リスクの評価と有機物管理
課題ID:03-06-06-01-06-05
予算区分:自然循環
研究期間:2003〜2005年度
研究担当者:前田守弘、太田健、井原啓貴

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