家族経営の円滑な継承に向けた経営管理の内容と留意点


[要約]
家族経営の円滑な継承には、農業経営者のライフサイクルに合わせて、後継者の就農対策、能力養成対策、世代交代対策、後継者がいない場合の対策を実施する必要がある。そこでの具体的な経営管理の内容と留意点を整理したパンフレットを作成した。

[キーワード]家族経営、経営継承プロセス、後継者、ライフサイクル

[担当]中央農研・農業経営研究チーム
[代表連絡先]電話:029-838-8876
[区分]共通基盤・経営、関東東海北陸農業・経営
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
  次世代を担う若い農業者の育成のためには経営の円滑な継承が不可欠である。しかし、これまでは農業後継者の確保に重点が置かれ、後継者が経営者として必要な能力・ノウハウを身につけるためにどのような経営管理が必要となるかは、十分示されていない。そこで、農業経営者による具体的な取り組みの分析から、家族経営の円滑な継承のために実施すべき対応と留意点を明らかにし、農業経営者や指導機関向けのパンフレットを作成する。

[成果の内容・特徴]
1. 家族経営の継承プロセスは、農業経営者のライフサイクルから見ると、「後継者の就農前」「後継者の能力養成期」「経営者の世代交代期」に区分でき、それぞれの過程では「後継者を確保するための取り組み(就農対策)」「後継者の能力養成のための対応(能力養成対策)」「円滑な世代交代のための対応(世代交代対策)」が必要となる(図1)。また、後継者を確保できなかった場合は、事業を廃止するか、家族以外の人に継承するための対策が必要となる。
2. この経営継承プロセスに基づいて、本パンフレットでは、実際の取り組み事例において行われた継承対策の特徴や問題点を整理し、各対策で経営者が実施すべき経営管理の内容や留意点を提示した(図2)。
3. 「就農対策」としては、まず、就農に向けた後継者への働きかけや規模拡大等の体制整備を行い、また、後継者の就農が決まったら、具体的な継承計画を作成するとともに、必要に応じて経営外での就農前トレーニングを行う。
4. 「能力養成対策」には経営内でのOJTと経営外でのOff-JTがあり、OJTでは後継者の能力獲得状況に応じて作業や意思決定を任せていくことが基本となる(図3)。また、後継者に任せていく際の具体的な役割分担には、表1に示す4つのタイプがあり、経営内容や後継者の能力、意向に応じてそれらを組み合わせて選択する。
5. 「世代交代対策」としては資産の円滑な引き継ぎが必要であるが、同時に、定年制などの世代交代の仕組みを構築しておくことや、引退後の前経営者の役割や生活の保障、事故等による突発的な世代交代時の対応策を考えておくことが重要である。
6. 後継者を確保できずに家族以外の人へ事業を継承するときには、短期間で能力養成対策を実施するとともに、地域や取引先への継承者の認知を図り、さらに、世代交代の時期や資産の継承方法を文書等により事前に明確化しておくことが特に重要となる。

[成果の活用面・留意点]
1. 農業経営者による経営継承対策の検討や、指導機関が経営者育成に向けた支援を進める際の参考になる。
2. 本パンフレットは、中央農業総合研究センター農業経営研究チームHPからダウンロードできる(http://narc.naro.affrc.go.jp/team/fmrt/index.htm)。


[具体的データ]

図1 農業経営者のライフサイクルと経営継承プロセス
図2 パンフレットの構成と内容
図3 後継者への意思決定権の移譲過程 −茨城県O経営(水田作)の事例−
表1 経営者と後継者の役割分担タイプ

[その他]
研究課題名: 関東東海北陸地域における個別経営体の総合的経営管理手法及び多様な主体間連携による地域活性化手法の開発
課題ID:211-a
予算区分:基盤
研究期間:2006〜2006年度
研究担当者:山本淳子、梅本  雅  
発表論文等: 山本・梅本(2006)パンフレット「農業経営の円滑な継承に向けて−進め方とポイント−」中央農業総合研究センター
山本(2003)「家族経営における経営継承プロセスと経営対応」柳村俊介編著『現代日本農業の継承問題』日本経済評論社,p.124-136

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