食用農産物の育種研究を国民に理解させる効果的なアウトリーチ活動


[要約]
一般国民に新規食用農産物や育種研究に関する情報を伝達するためには、ホームページによる情報提供と電子掲示板の開設が効果的であるが、さらに積極的な関心、行動を喚起するには、サンプル配布による使用体験や研究者との直接対話が必要である。

[キーワード]アウトリーチ、双方向コミュニケーション、電子掲示板、サイエンスカフェ

[担当]中央農研・マーケティング研究チーム
[代表連絡先]電話:029-838-8481
[区分]共通基盤・経営、関東東海北陸農業・経営
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
  今日の農業関連試験研究機関及び研究者には、研究活動の意義や新品種及び新たな研究方法の安全性や有効性、税金を投入することの意義について、国民に正確な情報を直接伝えるアウトリーチ活動が要請されている。一方、国内外のアウトリーチ活動では、既存の刊行物や広報活動等の一方向的な情報伝達に加えて、いくつかの双方向的なコミュニケーションが実施されているが、それらの効果を実験的に比較検討した研究は行われていない。そこで、比較的容易に実施できる方法について、農研機構で開発されたパン用小麦(ミナミノカオリ)を取り上げ、新品種の特徴および研究開発の内容・意義を、一般の国民に効果的に理解してもらうためのアウトリーチ活動の方法を選定する。

[成果の内容・特徴]
1. 情報提供はホームページ、双方向コミュニケーションツールは電子掲示板をベースとし、これにサンプル配布による使用体験やサイエンスカフェ(一般市民と研究者が気楽に直接対話する試み)を組み合わせた方法A、B、C(図1)を設定する。各方法ごとに、被験者の小麦や育種研究に関する「知識水準」を試験期間前と期間後の2回測定する。また、被験者の小麦や育種研究に対する「関心」について、試験期間中の電子掲示板への書き込み内容と試験期間後のグループインタビューでの発言内容から比較検討する。さらに、試験期間後に「第三者への情報伝達行動」を把握する。
2. 「知識水準」を試験期間前と期間後で比較すると、いずれの方法とも試験期間後に「知識水準」は向上しているが、方法間に「知識水準」の明確な差はみられない(表1)。
3. 「関心」をみると、電子掲示板に書き込まれた内容は、方法Bはミナミノカオリの小麦粉、方法Cは研究や小麦に関する書き込みが他の方法よりも多くなる(表2左)。また、グループインタビューでは、方法Aではパン焼きの話、方法Bでは小麦粉に関する話、方法Cでは小麦や研究に関する話が主に議論されている(表2右)。この結果から方法A<方法B<方法Cの順で、研究に対する関心が高まっているといえる。
4. 「第三者への情報伝達行動」をみると、モニター(1人)が試験体験を第三者に話した、あるいはこれから話したい第三者の人数は、方法A<方法B<方法Cの順に増加しており、特に方法Cは世帯を超えての情報伝達が期待できる(表3)。
5. 本研究で用いた方法はいずれもアウトリーチ活動として有効であり、国民の知識水準を向上させるためには方法A、新品種農産物に対する関心を高めるためには方法B、研究に対する関心を高めるためには方法Cが効果的であるといえる。

[成果の活用面・留意点]
   本成果は、農業関連試験研究機関の研究管理者がアウトリーチ計画を策定する場合、研究者及び研究広報担当者がアウトリーチ活動を実施する場合に活用できる。
 国民が安全性に疑義を持っている食用農産物のサンプル配布は行わない方がよい。


[具体的データ]

図1 アウトリーチの3方法
表1 被験者の知識水準
表2 被験者の関心
表3 被験者の第三者への情報伝達行動

[その他]
研究課題名:消費者・実需者ニーズを重視した農産物マーケティング手法の開発
課題ID:311-i
予算区分:JSTモデル開発
研究期間:2005〜2006年度  
研究担当者: 河野恵伸・佐藤和憲・大浦裕二・星野康人(契約研究員)・小田俊介(九州農研)・田谷省三・平山立夫(機構本部)
発表論文等:河野(2006)研究調査室報告No.6:93-101

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