黒毛和種の育成期の放牧が肥育成績に及ぼす影響


[要約]
雌子牛に適正量の飼料を給与した放牧育成は、舎飼育成と同等以上の発育が可能であり、肥育期における増体や肉質についても舎飼育成と比べて遜色がなかった。

[キーワード]黒毛和種雌牛、育成、放牧、舎飼、肥育成績、肉質

[担当]茨城肉牛研・飼養技術研究室
[代表連絡先]電話:0295-52-3167
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(大家畜)
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
  近年、県内の公共牧場は種々の要因で放牧頭数が減少し、効率的な利用がなされていない。また、中山間地域を活性化するためには繁殖牛の増頭が重要であるが、畜舎を増築することなく増頭するためには放牧地の活用や遊休農地等を放牧地として利用する技術が求められている。
  放牧地で育成した子牛は内臓や心肺の機能が増進するが、増体にバラツキがあり市場での評価は低く見られがちである。しかし、実際には骨格や内臓機能等がしっかりしているため、肥育牛としての仕上がりは良いという見方もある。
  このため黒毛和種の育成期の放牧が肥育成績に及ぼす影響を調査する。

[成果の内容・特徴]
1. 3ヶ月で離乳した同一種雄牛の黒毛和種雌牛を供試牛とし、放牧区(n=5)、舎飼区(n=5)に分け、10ヶ月齢までの発育及び11ヶ月齢から30ヶ月齢まで同一牛舎で同じ飼養管理を行い肥育期の増体を調査する。さらにと畜後、枝肉成績を調査する。飼養条件は放牧区が5種混播の草地43aで、舎飼区が25.01m2(4.1m×6.1m)の牛房で群飼する。給与飼料は粗飼料は牧草・チモシー乾草を飽食とし、濃厚飼料は両区とも全農茨城県本部の子牛育成マニュアルに従い給与する。肥育期はワラおよび濃厚飼料を同肥育マニュアルに従い給与する。調査項目は育成期の発育、運動量、肥育期増体、枝肉成績などである。
2. 育成終了時体重は放牧区283.0±18.5kg(平均±標準偏差)、舎飼区274.4±33.3kgであり、1日当り増体量はそれぞれ0.91±0.07kg、0.85±0.09kgである。また、育成終了時の体重は放牧区が舎飼区より分散が小さい(表1)。体高、十字部高、胸囲、胸深、胸幅、尻長、腰角幅、かん幅、坐骨幅についても放牧区は舎飼区に比べて同等以上の発育である。
3. 歩数計を用いた運動量の比較では、1日当たりの平均歩数は放牧区が舎飼区を上回ったが、両区に有意差は認められない(表2)。
4. 肥育試験終了時体重は放牧区648.0±36.9kg、舎飼区601.4±58.7 kgであり、1日当り増体量はそれぞれ0.70±0.04kg、0.62±0.05kgである。体重、体高、胸囲についても放牧区は舎飼区に比べて同等以上の増加である(表1)。
5. 日格協の格付は、放牧区が4・5等級率100%(A5:2頭、A4:2頭、1頭は死亡)、舎飼区が4・5等級率80%(A5:1頭、A4:3頭、A3:1頭)である。また、枝肉重量、胸最長筋面積、BMSNo.、脂肪交雑等級についても舎飼区に比べて放牧区は遜色がない(表3)。

[成果の活用面・留意点]
1. 公共牧場管理者や放牧を導入しようとする生産者等への情報として活用できる。
2. 管理に要する労力や経済性についての検討。
3. 現地実証例の積み重ねによる普及の促進。


[具体的データ]

表1 体格値
表2 1日当たりの歩数
表3 枝肉成績

[その他]
研究課題名:肉用牛の育成期の放牧が肥育成績に及ぼす影響
予算区分:県単
研究期間:2003〜2005年度
研究担当者:高橋覚志、大森英樹、川上清和、豊崎隆、谷島直樹、合原義人、茨田潔、矢口勝美、堀越忠泰
発表論文等:高橋ら(2006)茨城畜セ研39号:53−58

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